悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない
 二週間後。志桜は汐留の高層複合ビルの前に立っていた。デザイン性の高い洗練されたその建物に出入りしている人々は、オシャレでいかにも仕事ができそうな雰囲気を漂わせている。

 志桜の婚約者である楓が社長を務める『鷹井AIラボ』の日本法人は、このビルの二十五階に入居していた。訪ねるのは初めてだし、用件も用件なので少し緊張する。「ふー」と大きく息を吐いてから、志桜は腹をくくって一歩踏み出した。
 鷹井AIラボはその名のとおり、人工知能の研究開発を行っている企業だ。
 楓が大学生のときに立ちあげた会社なのでまだ若いが、彼の抜きん出たセンスと手腕に加えて、潤沢な資金力のある鷹井グループのバックアップも強みになったのだろう。瞬く間に急成長を遂げ、サンノゼとこちらの二拠点体制でグローバルなビジネスを展開していた。

 楓の開発した『トキル』という名のAIは愛らしいロボット風のビジュアルがウケて、今やたいていの若者のスマホにはトキルアプリが入っている。
 だが彼のビジネスの主流はトキルではない。AIを活用したい企業の依頼を受け、需要に合った仕様にカスタマイズして提供する。利益の柱はこちらのビジネスだそうだ。

 通された応接室で待っていると、五分もしないうちにカチャリと音がして扉が開く。

「すまない。待たせたな」
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