悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない
あの日も、今と同じように楓の美貌に圧倒された。彼はほんの少し考えてから、困ったように眉根を寄せる。
「好き……というわけではないな。グルメと同様にファッションもさほど興味が持てないから、悩まなくていいようスーツは黒と決めているだけだ」
志桜は思わずクスリと笑みをこぼす。彼ほどの美形が自分と同じように消極的理由で黒を好んでいるのがなんだかおかしかったのだ。
「楓さんには、どんな色も似合うと思いますよ」
「そう、だろうか」
「えぇ」
蕾が花開くように、志桜は柔らかにほほ笑んだ。思えば、彼に自然な笑顔を向けるのはこれが初めてだったかもしれない。
ヘアセットとメイクも楓がサロンを予約してくれていたので、志桜はおとなしく座っているだけでよかった。ヘアサロンの大きな鏡に映る自分は、いつもより多少は上等になったように見える。
(パーティーかぁ。お母さんが生きていた頃は家族で何度か出席したけれど)
母は社交的な人だったから、旧家同士のお付き合いの場などに嫌がらず顔を出していた。しかし、父は志桜とよく似た性格で華やかな場は得意じゃない。母の死後は自然と足が遠のく形になっていた。
「好き……というわけではないな。グルメと同様にファッションもさほど興味が持てないから、悩まなくていいようスーツは黒と決めているだけだ」
志桜は思わずクスリと笑みをこぼす。彼ほどの美形が自分と同じように消極的理由で黒を好んでいるのがなんだかおかしかったのだ。
「楓さんには、どんな色も似合うと思いますよ」
「そう、だろうか」
「えぇ」
蕾が花開くように、志桜は柔らかにほほ笑んだ。思えば、彼に自然な笑顔を向けるのはこれが初めてだったかもしれない。
ヘアセットとメイクも楓がサロンを予約してくれていたので、志桜はおとなしく座っているだけでよかった。ヘアサロンの大きな鏡に映る自分は、いつもより多少は上等になったように見える。
(パーティーかぁ。お母さんが生きていた頃は家族で何度か出席したけれど)
母は社交的な人だったから、旧家同士のお付き合いの場などに嫌がらず顔を出していた。しかし、父は志桜とよく似た性格で華やかな場は得意じゃない。母の死後は自然と足が遠のく形になっていた。