悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない
「い、いえ。別に」

 窓際の席に横並びで座り、AIバリスタの淹れてくれたコーヒーを味わう。彼はブラック、志桜はラテだ。香り高く、苦みも酸味も強すぎなくてちょうどいい。

「おいしいです、ここのコーヒー」
「それはよかった」

(楓さんは本当にコーヒーが好きなのね)

 ひと口飲んだあとの、柔らかくほどけるような顔がそれを物語っている。しばらく、ふたりとも無言でコーヒーの香りと、大きな窓の向こうに広がる日本とは異なる風景を楽しんだ。

「そういえば、聞いてみたかったんだが」

 楓の言葉に志桜はパッと顔をあげる。

「君がAIを導入してみたいと思ったきっかけは? KAMUROは伝統を重んじる企業だし、少し意外に感じたんだ」
「あぁ、それは――」

 志桜は今回の企画を思いついた経緯を彼に説明する。
 オンラインショップにも、実店舗と同様の接客サービスを。そこまでは、以前、楓にも話をした。彼が聞きたいのは、その手段としてなぜAI活用をと考えたのか?という点だろう。

「あるお客さまとの会話からヒントをいただきました」
「顧客の?」
「はい。半年くらい前だったかなぁ」

 記憶をたどりながら、彼に話をする。
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