雨の闖入者 The Best BondS-2
「早く! こっち!」


エナは屋敷の側面へと回った。

厨房へと続く窓の前。


エナはゼルのバンダナに手を伸ばした。

そして其れをひったくる。

「何すんだよっ!」


先ほど玄関を殴った音が掻き消され、手が傷んだだけで気が晴れなかったエナは、にやりと笑ってバンダナを巻きつけた拳を振り上げた。


「エナちゃん、待っ……」


ジストの制止の声が宙に浮く。

粉々になった窓ガラス。

エナが内鍵へと手を伸ばす。



「……あれ?」



何度か鍵を触ったあとエナは彼らを振り返り、にっこりと笑った。

「だーかーら、鍵、開いてるよーって言おうと……」

「……き、気晴らししたかっただけだもん。……わっ!」


地震かと思える程にけたたましい音と共に地面が揺れた。


「あいつ……! 飛び越えてきやがった!!」


彼らの表情が固まる。


「エナちゃん、急いで!」

「言わとも!」

「言われなくとも! だっ!」


ゼルの突っ込みを受け流し、エナはひょい、と窓枠に手をかけて飛び越えた。


ゼルが窓から身を滑り込ました瞬間、壁が揺れ、ぱらぱらと石の破片が降る。


窓から覗くのは大きな牙。


煌々とした灯りの中では、そのグロテスクさが際立つ。


「こっえーな……牙、足に当たったぞ、おい」

「お前の片足位くれてやれ。それで満足してくれたらラッキージャン?」

「オレの足をラッキーで済ますなっ!」


幾度にもわたる体当たり。


このままではいつか壁ごと壊されてしまいそうだ。

だが、彼らが食堂を越えて、玄関に繋がるだだっ広い廊下に出ると、その音はぴたりと止んだ。


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