雨の闖入者 The Best BondS-2
「心当たり、あるのかな……」


今度は声にしてみると何だかそんな気がしてきた。

闇屋として、また情報屋としても彼の周りには自分達が思っている以上の情報が溢れているのだろう。

耳寄りな情報からガセネタまで。

その情報の取捨選択の確実さこそが敏腕たる所以なのだろうとエナは思う。


だが、それとは別に、今回のジストはどうも何らかの真実を隠蔽しようとしているような気がしてならない。

この家に連れてきた時だってそうだ。

ただ純粋にエナに選択権を与えたのかもしれないが、それにしたって余りに渋りすぎだったように思う。


もしその理由が、薄々何かを感づいていたからなのだとしたら。


言えない事情があったのだとしたら。


まあ、ジストが何も答えようとしない以上、全て憶測の域を出ないのだが。



「秘密主義過ぎるんだよね、あいつ」


ずるりと体を滑らせて鼻の下まで湯に浸かりぶくぶくと泡を立たせる。

結局、自分で事実を捜し出すしかないのだ。

今夜あたり、屋敷を抜け出して手がかりを探しに行こう。


何か。何でもいい。

気付いていることがあるなら、言ってくれればいいのに、とエナは心中でぼやいた。


何故、何も言ってくれないのだろう。

何も言ってくれないから、こちらはあれやこれやと頭を悩ませなければならないのだ。

言ってくれれば、一緒に考えることだって出来るのに。

言ってくれれば、何だって受け止めるのに。

彼を利用すると決めて巻き込んだ過去がある以上、こちらにだって、それなりの覚悟がある。

けれど彼は何も言わない。

大切なことは、何一つ。


信用されていないのだ。

ジストはまだ、踏み込まれることを拒んでいる。

ジストだけではない。

おそらく、ゼルもそうだ。

ただ、ゼルは顔に出る分、分かりやすい。

根っからの正直者だから嘘も無い。

こちらが本気でぶつかればぶつかるだけ反応を返してくれるから、今はまだ拒む部分があろうとも、いずれ受け入れてくれるだろうと思う。

ジストがゼルのような性格ならよかったのに、と考えたエナは。


素直すぎるジストを想像し、溺れかけた。

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