雨の闖入者 The Best BondS-2
   *
  


大浴場かと見紛う広さの湯殿で沸かされた温かいお湯につかり、エナは余りの気持ち良さに息をついた。


「ふぁぁー極楽極楽」


呟きながら両手を絡み合わせて真上へと引き上げて筋を伸ばし、ついでに首をコキコキと鳴らせる。

何処か年寄りくさいところがあるエナである。

タオルで髪を纏めあげたうなじにも、湯から見える肩にも染みはおろか、黒子ひとつ見当たらない。

人が見れば羨むほどの滑らかできめ細かい肌。

無頓着になんのケアもなく日中駆け回っているなど、その白い肌を見て誰が想像出来るであろうか。


エナは手で湯を玩びながら食事時のジストの様子を思い出していた。

珍しく真剣な表情で考えこんだジスト。

明らかに、何かに気付いている。

話の流れからも、ジストが気付いたことが何なのか、実のところある程度理解してはいるのだ。


それに気付いたのはついさっきのことなのだが。


(……この町に雨、降らすのは船を止めることが目的……だとしたら、船止めて喜ぶのは、誰?)


船が止まると人が海を渡れなくなる。


物資の流れが止まる。


「……誰かの足止め……?」


言葉にしてみて、それは有り得ないと首を横に降る。

たかが足止めの為にそんな大掛かりな作業をするなど有り得ない。

それに、小さいし数も少ないが船が出ている港は他にもある。

他の港でも同じような現象が起こっているのだろうか。

此処から出る船のたどり着く何処かの国で何かが起こっているのか。

物資や人を必要とする何かが。


「……戦争?」


言ってみて再度首を振る。

そんな大きな戦争ならば噂に聞こえないはずがないし、
自由自治都市トルーアが北の大陸最大の都市である以上、物資はともかく、人材援助が行われるとは思いがたい。

良くも悪くも、リスクが高すぎることには手を出さないのがトルーアの特色なのだ。


銃火器を輸出していないこともないが、それならば他に幾らでも生成している土地がある。


どうにも腑に落ちない。


交通機関を止める目的も、そのことに気付いていながら隠そうとしたジストの真意も。

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