これが愛じゃなければ
「─蒼依?」
急に黙り込んだ自分に、母親が不思議そうな顔。
「ぁ……っ」
何か言葉を発さなきゃ。─でも、なんて?
「……っ」
蒼依は俯いて、手を握り締めた。
この家族は反対なんてしないし、蒼依が望まない限り、干渉もしない。蒼依の意見を聞き、尊重し、いっぱい愛してくれた人達。
『蒼依の名前の由来?─壮大な自然のように伸び伸びと、誰かを支えられるように芯の強く、そして、温かく、多くの人に愛される人になりますように!って意味』
ニコッ、と、笑って教えてくれた、父親。
『……あと、君自身も真っ直ぐと、どこまでも自由に生きていって欲しいなって』
プロのスポーツ選手(今は有名な指導者)である自分と、大女優として名を馳せる母親の間に産まれただけではなく、父方は昔からの名家。
蒼依は恵まれた容姿、環境で、幼い頃から、特別扱いをされることが多かった。
名前の意味を聞いたのは、学校の宿題。
まだ2年生だった蒼依にはピンとこない言葉もあったけど、父親の優しい笑顔と温かさに憧れて、母親のようにスイッチが切り替わるように別人になる仕事にも憧れて、蒼依は10歳になる前に、芸能界に入った。
母親と同じ芸能界で、傷つくこともあるだろう。
母は言わずもがな、父もスポーツ関連でよくテレビに出ていたこともあり、芸能界の孕む恐ろしさをよく知っていたからこそ、両親は芸能界に入った蒼依に仕事を無理やりさせることはなく、蒼依が提示されたものから選び、実力を磨いていく。
“本当に恵まれた立場”─それは、学校でも感じた特別扱い。そして、それに腹を立てる、同じ芸能の子ども……。