これが愛じゃなければ
第二章☪ ‎あなたがいることで

秘密 side燈




「……ここで、良いのかな」

今日は、彼に会う日。
輝が好きだったワンピースを身につけて、少し落ち着かないけど、彼の気持ちを否定したくなくて、とあるホテルのロビーで、燈は彼を待っていた。

今日は、彼が気持ちを伝えてくれた日に約束した、返事をする日。
数日間、それなりに悩み、仏壇の前でいっぱい話をしたけど、そういえば、昔はよく考えずに何事にも突っ込んでいたな〜とか、輝との思い出が沢山甦って、少し泣いて。

今はもう眠る、3人の家族─お父さんとお母さんと輝が遠くから、優しい目で燈を見守ってくれた記憶。
少しの運動も敵だった輝は、燈がどこまでも走っていく姿を見るのが好きだといい、外に出られない代わりにドラマを見たり、おままごとしたり……演技が好きだった燈は輝の前でだけ、いつも演技をした。

両親も褒めてくれて、嬉しかった。
楽しそうに手を叩く輝は、とても可愛かった。
もう3人とも居ないけど、大好きだった演技は多分、二度とすることは無いけれど。

(今日、お墓に付き合ってもらおう。そして、早く終わらせるんだ)

輝の振りをすることも考えた。
でもそれは、マネージャー……夏木くんに失礼だし、何より、輝の気持ちを蔑ろにしてしまう。
なら、燈は全てを話す道を選ぶ。

そして、遠くの田舎にでも引っ越して、ひとりで静かに生きて、死んでいきたい。
誰にも何も遺さずに、私はもう、輝をこの世に遺すことが出来たから。心残りは、もうないから。


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