これが愛じゃなければ



「─水無瀬さん」

待っていると、背後から優しい声で話しかけられた。
囁くような静かな声は、周囲へ配慮からだろう。

「……東雲さん」

少し悩んだ末に呼べば、彼は人差し指を口元に立てて。

「今日はどうか、ソウ、と」

「わかりました」

本名で活動する彼にとって、『東雲蒼依』という名前自体が商品だ。
元スポーツ選手の父親と、大女優の息子なだけあり、容姿はあまりにも人の目を引く。
今現在、同じくホテルのロビーにいる人達は横を通り過ぎる度、振り返る。
すらっとした長身、麗しい細面。
細長い指がサングラスに触れ、彼の黒髪が見える。
耳元ではシルバーアクセサリーが揺れ、輝いて。

「─行きましょうか」

そう言って手を差し出してくれる東雲さんは優しい人だなと思うが、帽子をかぶってサングラスをつけていてもなお、オーラは隠せず、多くの人に見られている。

「……」

その様子を見ながら、お墓に行くのは難しいかなと考えたり、自分も彼に合わせて演技をした方が良いのかな、とか。
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