これが愛じゃなければ

消えない光 side若久右京

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彼女は美しく、妹とは違う輝きの持ち主だった。
凛としていて、弱さを見せない。

最愛の妹を亡くし、その哀しみを共有する相手もいない。
全てを分け合った存在が、いなくなったのだから。

「燈さん」

事務所の社長室でそう呼ぶと、彼女は微笑んだ。

「久しぶりに、その名前で呼ばれました」

同じ顔なのに、笑顔は違う。
光の集合体のように眩しい笑顔だった輝と違い、燈さんは仄かな暗闇で見つけた光のような、花のように優しい笑顔を浮かべる女性だった。

「……書類、不備はなかったよ」

「そうですか。ありがとうございます」

─今日は、世間から完全に女優“ひかり”が消えた日。

完璧に数ヶ月間務めあげた彼女を訝しむ人間は誰一人おらず、彼女は『輝のファンで助かりました』と笑った。

「燈さんは、これからどうするんだ?」

「そうですね。来月で21になるので、もう一度、大学に通うか悩んでいたんですが、通ってもやりたいことは無いので、暫く、休暇期間と思って考えようかなと思っていたんですけど」

「ということは、やりたいことでも?」

「というより……社長さん、東雲蒼依って知っていますか?若手俳優として人気なことは知っていたんですが」

「ああ……、そうだね。彼は人気爆発中〜って感じの、俳優だよ。それがどうかした?」

「あ……と、家庭に何か問題でも?」

「それは聞いたことないけど。個人的に向こうの社長とは付き合いがあるから、聞いてみようか?向こうの社長、大学時代の親友だし」

「いや、そんなお手を煩わせることではないんですけど……輝は、彼と関わりありました?」

「ん〜、比較的仲良かったはず。でも、あの二人だから。確か、ほぼ同期だし、共演も多くて、何より東雲くんは基本、ポーカーフェイスだけど、輝はキラキラしてたから、そういう面で注目を集めることは多かったんじゃないかな。恋愛の話は聞かなかったけど」

「彼が、輝とマネージャーとの関係を知ってる可能性は」

「どうかな」

流石にそこまでは把握してなかったが、匠に聞けば何かわかるかもしれないので、提案してみる。


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