これが愛じゃなければ



「……いえ。わざわざ彼に負担はかけたくありません。それより、二人の関係は完全に世間には秘匿されたものですよね?」

「それは勿論」

「じゃあ、受けても問題は無いのかな……」

ブツブツと呟きながら、考え込む燈さん。

「何か、取引でも?」

「あ、はい。─一言で言えば、告白されました。“一目惚れ”をした、とのことで。ずっと好きだったと言われて、結婚前提の交際を申し込まれました。でも、絶対に裏があると思って。だから、彼の生育歴を知りたかったんですけど」

明らかに、輝なら出てこない単語。
いやいや、それよりも結婚前提のお付き合い……!?

開いた口が塞がらないとは、この事だろう。

「……受けるの?」

「輝が彼とどういう関係を築いていたのか、私はふたりの関係をよく知らないので、彼とは深く関係を持ってこなかったんです。そうしたら、『体調でも悪い?』っていった感じで話しかけられて、多分、それなりに親しかったんじゃないかな……でも、輝はもういません。輝への恋心を抱いたままなのは、彼を不幸にする」

本当ならば、輝の口から断った方が良かったんだろうけど……と呟きながら、彼女は微笑んだ。

「じゃあ、断るの?」

「いや、1度断りました。さっきも言った通り、ふたりの関係性を知りませんから。でも、引退するにあたり、再度、告白されまして……私の、否、“ひかり”の情報が世間に出ないよう、徹底的に守ると言われたのです」

「……それは」

「かなり、魅力的でしょう?」

今回の活躍の一方で、水無瀬燈は追い詰められていた。
普通に生活するには困難なほどに、ひかりは活躍してしまったのだ。同じ顔である彼女はこれから暫くの間、とても大変になることだろう。

事務所として守ることが出来れば、と思う一方で、どう考えても困難なこともある。

その面で、彼の提案は大きいかもしれない。


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