船々恋々

誰ですか?と思いつつ、少し引きつった笑顔を向けて手を振った私。
それが正解だったのか、私には分からなかった。

「あはは。それは数少ない若い女の子が嬉しいのもあるけど、愛想振りまき過ぎでしょ。」
そう笑うのは、他社のベテラン事務員さん。

造船所では、他社のライバル会社も“協力会社”と呼ばれる。
一緒になって大きな船を造るため、協力するための会社がいっぱい存在する訳で。
協力会の目的が、そういう類の統率なのか新人の私には理解できていない。
大げさに言うと謎の組織だったりする。

ライバルだけど情報は共有したり、社内だけで上手く隠したりと所長は大変そうだ。
他人事でいられるのは、いつまでだろうか。

「深元さんも若いじゃないですか、どう接するんですか?」
参考にしようと質問した私に、彼女は黒い笑み。
「相手次第。安売りはしない。」
そう言ってから、深元さんは眉間にシワで少し考えるような表情。
私は次の言葉を待った。
「あなたは計算しない方がいいわね。そうじゃなきゃ、何かあった時に私はあなたを助けてあげられない。」
頭の良い人は、私の理解できない何かを予知できるのだろうか。
その言葉を実感する日が来るとは、少しも思ってもいなかったから。
「そうですね、考えてもしょうがないので。」
安易に答えた私に、深元さんは笑顔を向けた。
「ここは情報が命。その為には交流は必要。かと言って、油断してると突き落されてしまう。用心深くありなさい。」
そう言って私の頭を優しく撫でる。
お姉さんのような人。

「おい、トロ豚!さぼってんじゃねぇ~ぞ。」
この声は。
毒舌な呼びかけに、振り返って会釈。
「木之下さん、お疲れ様です。」
礼儀正しくしたつもりなのに。
「返事をするな、ぼけ!」


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