船々恋々
あ、マズイ。これ、ダメなやつだ。
視線を受け、顔の距離が近づいてくるなんて。
目を逸らせないどころか、拒絶も出来ないような空気。
話題を出そうにも、どう続けていいのか分からない。
「……冨喜ぃ~~、やっぱりココにいやがったな!サボってんじゃ……ねぇ。オイ、何してんだ。」
私に近づいた距離はそのまま、視線だけを入り口に向けたトキくん。
入って来たのは現場責任者の木之下さん。
にらみ合ったのは数秒。
トキくんは私に視線を向けて、表情は変えずに小さな声で。
「嘘じゃないよ。ごめんね。」
私の肩に額をそっとのせて、すぐに離れた。
顔が一気に赤くなる。
すぐに手で顔を覆って、誤魔化そうとするけど、そんな必要もないトキくんの後ろ姿。
「木之下さんこそ、サボリっすか?」
「うっせ、黙れ。現場に戻って作業をしろ。今後、こんな事は認めねぇ。」
トキくんを事務所から追い出した木之下さんの空気が、凍るほどに冷たいのが伝わる。
どんどん私に近づいてくるのに、いつものような嫌味も無く無言。
身体は固まったように動けず、視線を向けることも出来ない。
私の横まで来て、大きなため息。
「はぁ~~。ホント、気を付けてくれよな。……まぁ、俺の監督不足か。三浦、大丈夫か?」
いつもは名字なんか使わないくせに。
こんな時だけ。
泣きそうになるのを堪えて、口を開く。
「大丈夫です。それより……私、どうすればいいですか?」
年下の男の子とはいえ、大人の男性から弱さを見せられ、グラつくような感情。
好きとか、恋愛感情ではないけれど、どうしても何か力になってあげたい。
「男に同情で行動するのはお勧めしないっす。ま、何があったかなんて知らんすけど。」
木之下さんは普段と同じ口調に戻る。