吸血少女はハニーブラッドをご所望です(コミカライズ原作です)
♯8.それぞれの思惑と不穏な兆し。
「速攻ーっ!」
ダンダンと床を跳ねるボールの音が、心音を高める。
観客の心を鷲掴みにして走るのは、既にゴール下へとボールを運んだ上級生らしき部員だ。守りを固める相手チームが立ちはだかった。
「白翔!」
顔は完全にゴールを向いているのに、突如として後方から走り込んだ白翔にボールが回される。
バチ、と音を立ててそれを受け取り、白翔はその場でボールを構えた。目は一直線にゴールネットへ。
指先まで意識したかのような綺麗なフォームで、白翔はシュートを放った。スリーポイント。オレンジのボールが滑らかな弧を描く。
体育館全体が見渡せる二階部分で、深緋は彼の勇姿を見守った。
パシュ、と小気味良い音が鳴り、ドッと歓声が上がる。深緋も自然と笑顔になった。
「ナイッシュ!」
得点板の数字が三枚捲られた。女子の黄色い悲鳴と拍手の音が混ざり合う。
手すりに両手を置き、チームメイトとハイタッチする白翔を見ていると、急にその視線がこちらを向いた。嬉しそうに笑う白翔を見て、深緋も微笑んだ。
「ねぇ、あれ。朝比奈さん、だよね?」
賑やかな歓声に混ざって、誰かの声が深緋を名指しする。自分のことを言われていると察して、殊のほか耳をそばだててしまう。
「何か雰囲気ちがうくない? 髪型とか服装とか可愛いし」
「ほんとだ……、もしかして、大路くん……かな?」
「ああ、終業式の昇降口の話?」