吸血少女はハニーブラッドをご所望です(コミカライズ原作です)
 勿論、深緋に姉妹はいないので、若い見た目の祖母を姉として紹介していた。

「で、当のお姉さんはどこにいんの?」
「今は仕事に出てるから居ないけど。それがどうかした?」
「………いや」

 どこか複雑そうな表情をする白翔を盗み見て、深緋は十分ほど前の記憶を思い返していた。

 **

「深緋……、なにやって……?」

 上ずった声で訊ね、白翔は状況を判断しようと努めていた。地に伏せる男に視線を据えてから、また深緋を見つめる。

 暗い路地に漂う怪しげな空気と緊迫感から、白翔が深緋を訝しむのは当然の結果だった。

 犯行現場を押さえられた犯人は、おそらくこんな気持ちだろうか、と冷静に分析する。

 状況証拠だけで察するならば、深緋が男に危害を加えたのは確実で、もはや言い逃れるすべもない。

 あっさり罪を認めてラクになりたい。

 そう思うのだが、自分が人間ではないということがばれるのは、さすがにまずい。

 深緋は無言で眉をひそめてから、白翔に近づき、その横を通り過ぎた。まるで存在を無視するかのごとく、自宅への道のりを進んだ。

「あっ、おいっ」

 こうすれば白翔が追いかけてくるのを知っていた。

 白翔は思惑通り、慌てて深緋の手を掴んだ。

「お前、どうしたんだよ?? 背中の血……っ、まさか刺されたのか??」

 そばに立つ外灯の光で血液のシミがあらわになった。

「白翔」振り向きざまに名前を呼んだ。
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