恋愛Sim★comp
幾久side。

編集長に母親に怒られて、次の日には退院した。
夢の中の君は泣いていたけど、入院のことは黙っておこう。
同じように、現実で君に泣かれたら……胸が苦しい。君の笑顔を見ていたい。

編集長が、時間をくれた。疑問に思うべきだった。
俺には、自由があった。偉い人から許可をもらわなくても……。
浮かれた俺は、最後の日を時間の短い普通の日に選んだ。
君の電話の声は、落ち着いていて……女優だね。
そんな演技をさせたなんて、俺を殺してやりたいよ。
君は、その時間……何を考えた?いくら思い出そうとしても、分からない。
ただ、のん気にその時間を楽しんだんだ。君が笑うから。
いつもより多く、俺の名を……愛しく呼ぶから。
俺の心は、純粋に反応した。
浮かれたんだ。君に心が通じたんだと……単純に。

学校が終わったのは何時だった?
その日は、進路の関係で5時を過ぎ……6時が近かった。
君は、夜ご飯にいつものファミレスじゃなく……初めて入った喫茶店を選んだ。
そう、契約を交わした場所だ。
思い出の場所に浮かれた。君は、俺と違う意味で味を覚えているだろうか?
同じ、ディナーセットだった。遅い時間のそこは、いつもより高い金額だった。
そこがいいと、初めてのわがままに……君の焦る姿は忘れない。
可愛い君のわがままに、金額なんて気にならない。
そんな俺を、君はどう見た?
“別れなければならない現実”を……味わったのだろうか?

俺の世界は、ここでなくてもいいんだ。俺は男だぞ?
人との付き合い?みんなが経験する。
世間に出て、もまれて当然だ。上下関係を覚悟して生きる。
資格を取る。どんな仕事だっていい。
君と共に時間を過ごせるなら……お金だっていらない。君が欲しいんだ。
俺を見失うほど。編集長が警戒するほど、狂ったのは俺の感情をコントロールできない自分の所為だ。
君が悪いんじゃない。
君を失ったら……物語は終わりなんだ。未来はない。
君が……どれだけ望んでも……物語の世界にさえhappy‐endは無い。

時間は、無情にも過ぎていく。楽しい時間は、あっという間だった。
君は?同じ時間、辛い想いばかりだっただろうか?
君の呼ぶ名前に、違和感を抱き始めた。君は、視線を逸らして誤魔化す。
残り時間は、わずかになった……ほんの少しの瞬間。
俺は、後悔する。
言うんじゃなかった。言わなければよかった。
君は、赦さないで。憎しみでも、俺を忘れるな!

「ね、キスしてもいい?5万出すから。」
「……はっ!一瞬、悩んだ自分がいるわ。……触れるだけ?なら、考えなくもない。」
君は、冗談ぽく振舞った。
我慢の限界に、火を付けた。
「じゃ、早速。戴きます。」
近づく俺を、見たことのない涙の量の君。
俺の口を手の平で押さえ、離した手の平にキスをした。
「……ごちそうさま。……ごめんね。さようなら……」


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