恋愛Sim★comp
「幾久……。私、母子家庭なの。病気で亡くなったのに、父を赦せなかった。母の悲しみが、目に見えたから。見えるものを信じて、見えないものを認めなかった。……男の人が信じられなくて、お金さえあれば……安心が得られると、自分を誤魔化していた。男の人は、要らない。悲しみが増えるだけだから……ふふっ。その通りだったけど、幸せだった……」
俺の腕の中、表情が見えない……俺の目に、涙が溢れる。
【ポタ……】
君の髪に滴る。
「ごめん……」
比名琴は、俺の涙より多くの涙を流していた。
「……幾久、ありがとう。」
涙いっぱいで、笑顔を俺に向けた。
何故、ありがとうなの?分からないけど、俺は強く抱きしめた。
「比名琴……比名……」
ただ、言葉が出なくて……名を何度も呼んだ。
静かな時間……
気持ちが落ち着き始め、俺は比名琴の髪を撫でる。
俺の涙で、少し濡れている。
触れたかった髪は、思った以上にサラサラで冷たかった。いい匂いがする。
愛しさに、髪に指を絡め……キスをした。
うわぁ~~。これも、何とも言えない。
言葉で表せない感情が、この世に存在するんだ。
愛しい……一言ではあっけない。あまりに自分が稚拙な気がして……
「……フュ~ウ~」
口笛?
俺たちは、慌てて距離を取った。
比名琴は、うつむいて窓際に移動する。物凄く素早い動きに、思わず感心した。
「いい絵だ。あんたら、自然にこれなの?いいねぇ~~。美味しいよ♪」
「監督……て、時間でしたか?」
時計を見ると、10分前……
「いや~順調で、息抜きに様子を見に来たら……くふふ。」
何だか、損した気分だ。何故?
俺たち二人は、気まずい雰囲気で別の教室に移動する。
監督だけは、鼻歌の上機嫌だった。
畜生!こんな雰囲気、どうしたらいい?困ったな……責任とってくれよ!
そんな心配は、撮影したシーンを見たら簡単に消えてしまった。
比名琴は、とても興味津々で目が輝いている。
可愛い!今までに見たことのない表情だ。
うん、得した気分。監督、ありがとう♪