妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
 子どもや保護者からは、何故か北斗に対する声援が飛んでくる。それを聞きながら、花梨は逃げることもできずにその場に立ち尽くしていた。

 北斗との距離は一メートルもない。体はこわばり、絵本を胸元でギュッと握りしめる。

 彼は花梨を見つめ、まるで高校生の時に戻ったかのように優しく微笑んだ。その瞬間、胸がキュッと締めつけられる。

「えー、では僕から一言。山之内先生、ずっとずっと好きでした! 今日はお会い出来て嬉しいです!」

 すると会場にどっと笑い声が響き渡った。

「先生! それじゃあ告白だよ!」
「あっ、そうか。緊張して、つい。でも本心だし」
「北斗先生ってば、かりん先生のことを好きすぎるー!」
「だから彼女出来ないんだよー」
「それは関係ないだろ⁉︎」

 笑い声が溢れる中、花梨だけは時間が止まったかのように微動だにしなかった。目を伏せ、赤くなった頬を絵本で隠す。

 今の言葉は、絵本が好きだって言いたいだけ──勘違いしてしまいそうになる自分に、そう言い聞かせる。

 その時だった。北斗がゆっくり近づいてきたかと思うと、
「勘違いじゃないからね」
と耳元で囁かれたのだ。

 まるで花梨がそう思おうとしていることをわかっているかのようなセリフに、思わず耳を押さえて勢いよく彼の顔を見た。

 勘違いじゃないとは、一体どういうことだろう──不敵な笑みを浮かべた北斗から目が離せなかった。心の奥底にしまい込んだはずの感情が胸を締め付け、息が苦しくなっていくのを感じた。

「じゃあみんなで山之内先生にお礼を言いましょう」

 白井の声で現実に引き戻された花梨は、慌てて視線を逸らしたが、鼓動の速さと息苦しさはどうすることも出来なかった。
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