妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
* * * *
何人かの子どもたちにサインを頼まれて書いている間、北斗がどこかで自分のことを見ているような気がしていた。
ただ不思議なことに、今は彼から逃げようという気は起きなかった。それは先ほどの子どもたちの言葉が大きく影響したのだと自覚している。
自分自身のことを好きだと言われるよりも、絵本を好きだと言われる方が嬉しい。それに彼の言葉だけでは不信感を抱いたはずだが、子どもや保護者が彼が花梨の絵本を好きだということを証明してくれたのだ。
及川先生の葬儀の日には、彼の現状を何も知らなかったし、知りたいとも思わなかった。でも今は、自分の絵本を知った経緯や、一番好きだと思う絵本について興味が湧いてきた。
絵本をカバンにしまい、お世話になった人たちにお礼を伝えてから、病棟の扉の外に出る。すると案の定、北斗が廊下の壁に寄りかかって花梨をじっと見つめて待っていた。
その瞳に捕らわれ、花梨の心臓が徐々に早くなっていくのを感じる。及川先生の葬儀の日は、彼への不信感と素直になれない自分の間で、まっすぐに彼を見ることが出来なかったが、今日の出来事が花梨の中のわだかまりを溶かしてくれた。
そうして北斗を見つめると、あの頃と変わらず素敵な姿に思わず見惚れ、鼓動が早くなっていく。今もこんなに彼の存在が胸を占め、惹かれてしまうなんて──そんな自分に苦笑いをした。
「……なんとなく、菱川くんがいる気がしてたよ」
花梨が肩を落として言うと、北斗は嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「前回は逃げられたからね、今回はそうはさせないよ」
「でも菱川くん、まだ仕事中でしょ? それなら簡単に逃げられちゃうと思うけどなぁ」
冗談めかして言った瞬間、壁際に体を押し付けられてしまう。
「やっと俺を見てくれたね」
彼の顔が近くなり、気まずくて下を向く。
「だってそうしないと話せないし……」
「どうして話してくれる気になったの?」
「子どもたちがいろいろ教えてくれたから……」
子どもの口から語られるものに嘘はないはず。自分を守るためにつく嘘はあったとしても、他人の印象を打算的に変えるようなことはしないとわかっていた。
だからこそ、子どもたちが発した言葉が真実なのだと思えたし、自分の作品を好きだと言ってくれている北斗を拒絶出来なかったのだ。
何人かの子どもたちにサインを頼まれて書いている間、北斗がどこかで自分のことを見ているような気がしていた。
ただ不思議なことに、今は彼から逃げようという気は起きなかった。それは先ほどの子どもたちの言葉が大きく影響したのだと自覚している。
自分自身のことを好きだと言われるよりも、絵本を好きだと言われる方が嬉しい。それに彼の言葉だけでは不信感を抱いたはずだが、子どもや保護者が彼が花梨の絵本を好きだということを証明してくれたのだ。
及川先生の葬儀の日には、彼の現状を何も知らなかったし、知りたいとも思わなかった。でも今は、自分の絵本を知った経緯や、一番好きだと思う絵本について興味が湧いてきた。
絵本をカバンにしまい、お世話になった人たちにお礼を伝えてから、病棟の扉の外に出る。すると案の定、北斗が廊下の壁に寄りかかって花梨をじっと見つめて待っていた。
その瞳に捕らわれ、花梨の心臓が徐々に早くなっていくのを感じる。及川先生の葬儀の日は、彼への不信感と素直になれない自分の間で、まっすぐに彼を見ることが出来なかったが、今日の出来事が花梨の中のわだかまりを溶かしてくれた。
そうして北斗を見つめると、あの頃と変わらず素敵な姿に思わず見惚れ、鼓動が早くなっていく。今もこんなに彼の存在が胸を占め、惹かれてしまうなんて──そんな自分に苦笑いをした。
「……なんとなく、菱川くんがいる気がしてたよ」
花梨が肩を落として言うと、北斗は嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「前回は逃げられたからね、今回はそうはさせないよ」
「でも菱川くん、まだ仕事中でしょ? それなら簡単に逃げられちゃうと思うけどなぁ」
冗談めかして言った瞬間、壁際に体を押し付けられてしまう。
「やっと俺を見てくれたね」
彼の顔が近くなり、気まずくて下を向く。
「だってそうしないと話せないし……」
「どうして話してくれる気になったの?」
「子どもたちがいろいろ教えてくれたから……」
子どもの口から語られるものに嘘はないはず。自分を守るためにつく嘘はあったとしても、他人の印象を打算的に変えるようなことはしないとわかっていた。
だからこそ、子どもたちが発した言葉が真実なのだと思えたし、自分の作品を好きだと言ってくれている北斗を拒絶出来なかったのだ。