妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
* * * *
一分一秒がとてつもなく長く感じた。ロビーの隅の方の椅子に縮こまって座りながら、花梨は居心地の悪さを感じていた。
彼の関係者や患者に見られたら良くないのではないか──そんなことを考えながら、そわそわし始める。
来るなら早く来てほしいし、出来ることならこのまま帰りたい気持ちが増していく。不安な気持ちを吐き出すように、大きなため息をついた時だった。
「えっ……まさか山之内さん?」
自分の名前を呼ぶ声がして、花梨は勢いよく振り返った。先ほど読み聞かせをしたばかりだし、声をかけられてもおかしくはない。しかし『まさか』という言葉が引っかかり、もしかしたら知り合いかもしれないという警戒心を抱きながら、声の主を見上げた。
そこには背が高く、肩までの茶色い髪の女性が、驚いたように口を開けて立っていた。体のラインを強調するかのようなサマーニットとデニムは、花梨には縁のないファッションだったが、その女性の雰囲気には合っているように感じる。
声をかけてきた女性を凝視した花梨は、その顔立ちに既視感を覚える。そしてハッとしたように目を見開くと、心拍数が上がりはじめた。
「読み聞かせに来た作家の名前を見て、もしかしたらって思ってたんだけど、こんな偶然ってあるのねぇ。びっくりしたー」
「もしかして、原田さん……」
「あら、クラス違ったのに覚えてくれていたんだ。それにしても山之内さんって、高校時代と何も変わってないのねぇ。うふふ、あの頃のままじゃない」
どこか上から目線のセリフと、あの頃と変わらない彼女からの威圧感に、花梨は思わず怯んで口を閉ざしてしまう。
もう八年も経っているのに、まるで昨日のことのように思い出し、胸が締め付けられた。過去のことなのに、未だに捕らわれ続けている自分が嫌になる。
一分一秒がとてつもなく長く感じた。ロビーの隅の方の椅子に縮こまって座りながら、花梨は居心地の悪さを感じていた。
彼の関係者や患者に見られたら良くないのではないか──そんなことを考えながら、そわそわし始める。
来るなら早く来てほしいし、出来ることならこのまま帰りたい気持ちが増していく。不安な気持ちを吐き出すように、大きなため息をついた時だった。
「えっ……まさか山之内さん?」
自分の名前を呼ぶ声がして、花梨は勢いよく振り返った。先ほど読み聞かせをしたばかりだし、声をかけられてもおかしくはない。しかし『まさか』という言葉が引っかかり、もしかしたら知り合いかもしれないという警戒心を抱きながら、声の主を見上げた。
そこには背が高く、肩までの茶色い髪の女性が、驚いたように口を開けて立っていた。体のラインを強調するかのようなサマーニットとデニムは、花梨には縁のないファッションだったが、その女性の雰囲気には合っているように感じる。
声をかけてきた女性を凝視した花梨は、その顔立ちに既視感を覚える。そしてハッとしたように目を見開くと、心拍数が上がりはじめた。
「読み聞かせに来た作家の名前を見て、もしかしたらって思ってたんだけど、こんな偶然ってあるのねぇ。びっくりしたー」
「もしかして、原田さん……」
「あら、クラス違ったのに覚えてくれていたんだ。それにしても山之内さんって、高校時代と何も変わってないのねぇ。うふふ、あの頃のままじゃない」
どこか上から目線のセリフと、あの頃と変わらない彼女からの威圧感に、花梨は思わず怯んで口を閉ざしてしまう。
もう八年も経っているのに、まるで昨日のことのように思い出し、胸が締め付けられた。過去のことなのに、未だに捕らわれ続けている自分が嫌になる。