妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
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 北斗との約束の日。花梨は朝からソワソワしていた。一緒に食事をしたけど、ちゃんとしたデートは初めてになる。男性とデートをすること自体が初めてなのだから、全てが未知の世界だった。

 クローゼットの中を開けて、持っている服を端から端まで見てみたが、どれがデートに適したものかわからず、とりあえずお気に入りのネイビーのワンピースを着ることにした。

 昨夜は当直だったという北斗に合わせて、多くの古本屋が立ち並ぶことで有名な街の最寄り駅に正午に待ち合わせをする。

 約束の時間より少し前に着いた花梨は、普段は全くしないおしゃれをしたことに対する恥ずかしさが急に込み上げてきて、知り合いがいないか辺りを確認をして、安堵のため息をついた。

 緊張と不安、そしてこんなに浮かれていてもいいのかという戸惑い──まだ彼と恋人同士になった事実に現実感が伴わず、この後に北斗がここに来ることを想像出来ない自分がいた。

 それに誤解は解けたと言っても、頭の片隅にはあの日に見た光景がこびりついて、なかなか全てを消し去ることは出来ない。

 一昨日のことは夢だったんじゃないか──そんなふうに思いかけた時、横から肩を叩かれる。はっと我に返り、叩かれた方向に目をやると、黒いポロシャツにベージュのチノパンを合わせた北斗が立っていた。

 学生の頃の制服姿の印象しかない花梨だったが、医者として働く白衣姿、そして普段着は爽やかな彼そのもののように思える。

 あの頃よりもさらに素敵になってる気がする──胸がときめき、一瞬呼吸をするのを忘れてしまった。熱くなった頬を隠すかのように両手で覆った花梨に、北斗は笑顔を向けた。

「ごめん、待った?」
「ううん、今来たところ」

 二人で食事をしたあの日に連絡先を交換し、行きたい場所が決まったら教えてほしいと言われていたのだが、デートの経験がない花梨は北斗に一任してしまった。その後は連絡がとれていないため、今日の予定について何も知らなかった。

「本当? 良かった。じゃあ行こうか」

 北斗はそう言うと、花梨の前に手を差し出す。これは繋ぐということなのだろうか──目を瞬きながら固まっていると、北斗がクスクス笑って花梨の手を取った。

「忘れてた。今日は全てお任せだったね。俺がしたいようにしちゃうけど、異論はないかな?」

 ある、と言いかけたが、彼が仕事の合間にいろいろと考えてくれたことを考えれば、反論は出来なかった。

「花梨が逃げないように、しっかり握っておかないと」

 北斗は不敵な笑みを浮かべると、花梨の手を取って歩き出した。
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