妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
「あはは! 花梨ってば可愛い」
「……恥ずかしすぎる」
「恥ずかしがる花梨も可愛いけどね。さて、じゃあこれからどうしようか。このまま今日は俺だけ帰ってもいいし、ご飯だけ一緒に食べてもいい。花梨が決めていいよ」

 どうして彼はいつも私の心の準備が出来るまで待ってくれるのだろう──それは再会してからだけではなく、再会するまでの期間も同じだった。思い込むと他者の意見に耳を傾けることが出来ない花梨に、北斗は決して無理強いはしないで、優しい距離感を保ちながら根気強く待ってくれる。

「私……すごく面倒くさい人間だよね」
「そうかな? 俺はそんな花梨が大好きだから、そうは思わないけど」

 北斗の手が頭を優しく撫でたので、花梨はうっとりと目を細めた。

「花梨はさ、自分の中で解決しようとし過ぎなんだよ。言いたいことは言っていいんだよ、俺が全部受け止めるから。それに花梨を甘やかす準備も出来てるからね、もっとわがまま言ってごらん」

 甘えるなんて、今までしたことがないから、どうすればいいのかわからない。ただ今まで気を遣いすぎて、我慢することが当たり前になっていた花梨からすれば、思ったことを口にするだけでも勇気がいる。だけどそれを何も気にせず受け止めてもらえるというのは、心が楽になれる気がした。

「……せっかく準備したし、北斗くんの部屋にお泊まりしたい」
「うぅっ……花梨は俺を喜ばせるのが上手過ぎるよ。よし、じゃあ夕食を食べてから、うちに行こうか」
「あっ、私が夕食作る? 今からなら──」
「いや、今日は食べてから帰ろう。そうじゃないと、部屋に入った途端に、夕食より先に花梨を食べちゃいそうだから」
「えっ⁉︎」
「これは冗談なんかじゃないよ。その覚悟があるのなら、家に行くけど……」
「ううん! やっぱり食べてから帰ろう!」

 さっきまであんなに落ち込んでいたのに、彼が来てくれただけでこんなにも元気になってしまった。

 立ちあがろうとすると、北斗は荷物を受け取り、花梨の前に手を差し出す。その途端、体と心が熱くなるのを感じる。

 彼を好きになって良かった──そして彼が自分のことを諦めずにいてくれたことが、何よりも幸せだと思えた。

「北斗くん、ありがとう……大好きだよ」
「俺も。いつまでも花梨を愛し続けるよ」

 唇に降ってきたキスは、優しく甘く、身体中が蕩けてしまいそうなほどの安心感を花梨に与えてくれるのだった。
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