妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
「……知ってたの?」
『うん、大事な時に間に合わなくてごめん。原田が何を言ったのかはわからないけど、こうして花梨がいなくなったっていうことは、それだけ傷付いたってことはわかる。だから原田には、これ以上俺たちに関わるなってはっきり言った』

 それで彼女が納得するかはわからなかったが、北斗が自分のために言ってくれたのだと思うだけで、心が満たされていく気がする。

「ありがとう……」
『でも……もし花梨がしばらく距離を置きたいのならそれでいいし、ちゃんと話がしたいって思ってくれるなら今すぐ会いにいく。花梨がしたいようにしてくれて構わないよ。でもね、これだけは言っておく。俺は花梨をもう逃さないって言ったんだ。だから何があっても、必ず最後は花梨を迎えにいくから、それだけは覚えていて』

 あぁ、そうか。あの時もきっとこうだったのかもしれない。北斗と愛佳のキス現場を目撃して彼を避けてから、彼は花梨のことを離れた場所からずっと見守っていた。花梨の気持ちが落ち着くその日を、ただ待ち続けてくれた──そんな北斗の辛抱強さと温かさに、今ようやく気付くことが出来たのだ。

『花梨は俺にどうしてほしい?』

 涙が溢れて止まらない。もう気持ちは一つに決まっていた。

「北斗くんにそばにいてほしい……」

 花梨が俯きがちにそう口にした時だった。突然温かい腕に抱きしめられたのだ。何が起きたかわからず、花梨は口をポカンと開けて目を瞬いた。

「花梨が望むなら、ずっとそばにいる。約束するよ」

 驚いて顔を上げた花梨の目に、優しく微笑みかける北斗の姿が映る。

「えっ……なんで北斗くんがここにいるの? 私、部屋番号までは教えてないよ」

 手からスマホが滑り落ちると、北斗が拾って花梨に手渡した。

「及川先生に年賀状を送っただろ? その時にこっそり盗み見た」
「それじゃあ私の住所って……」
「前から知ってたよ。でもここまで来るのはずっと我慢してたけど……だって花梨にあれ以上嫌われるのは辛いからね」

 後から明かされる真実に驚かされるばかりだったが、それによって彼の想いを知り、心が解けていくのを感じた。

「ごめんなさい……私のせいだった……。原田さんの思惑通りになって、北斗くんを傷付けたの……」
「……もしかして、あのキス、花梨にわざと見せたとか言ってた?」
「ど、どうしてわかるの⁉︎」
「あぁ、やっぱりそうなんだ。あまりにもタイミングが良すぎる気がしたんだよ。花梨に避けられた理由を聞いた時、そんな気がして……まぁ時すでに遅しだったけどね」
「私がちゃんと話を聞いていたら、こんなことにはなっていなかったのに……」
「花梨がそう出来なかったのは、花梨が素直で真っ直ぐだからだよ。そんな花梨が俺は好きなんだ。遠回りをしたかもしれないけど、大人になった今だからこそ、見えたものもたくさんあると思う。体ごと愛し合えたのだって、大人になったからこそだし」

 イタズラっぽく笑った北斗に対し、花梨は何も言えずに顔を真っ赤に染めた。
< 77 / 84 >

この作品をシェア

pagetop