妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
* * * *
車を降りた花梨は、懐かしい校門と、その先に見える白い校舎を目の当たりにし、驚いた顔で北斗を見た。
「高校……えっ、どうして?」
「部室が今どうなっているか、見てみたいって前に言ってたよね」
「見たいけど、今日って生徒がいるんじゃ……」
「卒業式だったんだって。だから今残ってる生徒は、少しだと思うよ」
まるで誰かに聞いたかのような話ぶり──そう思っていると、
「先輩!」
と声をかけられる。
花梨と北斗が揃って声のした方を見ると、そこにはスーツに身を包んだ一人の男性が立っていた。短い黒髪とメガネをかけたその顔に、花梨は見覚えがあった。
「もしかして……都築くん?」
「正解です。お久しぶりですね、お元気そうで何よりです」
「本当に久しぶり。元気だった? あっ、本も全部読ませてもらってるよ」
「元気ですよ。ありがとうございます。俺も先輩の絵本、全部家にあります。先輩が卒業して以来ですよね。北斗先輩はしつこいくらいに連絡してきますけど」
都築は不愉快そうに眉間に皺を寄せた。
「そんなこと言うなよー」
嫌がる都築の肩を抱く北斗からは、彼に心を許している様子が窺える。そんな姿を初めて見た花梨は、新しい発見に嬉しくなった。
「いいだろ? 都築が一番信用出来る友達なんだから」
「はいはい。わかりましたよ。先輩は俺のことが大好きなんですよね」
「まぁそういうことかな」
「あはは。話は聞いてたけど、本当に仲良しなんだね」
そう言いながらクスッと笑うと、北斗は都築から離れて花梨の隣に立って手を握った。
「北斗くん?」
「危うく道を踏み外すところだった。俺の一番は花梨だからね」
北斗が真剣な表情でそう言ったが、花梨と都築はポカンと口を開けてから、突然笑い始める。
「別にそんなふうに思ってないよ」
「やめてくださいよ。北斗先輩の一番が山之内先輩だなんて、高校の時から知ってますよ。じゃあ話はこれくらいにして、そろそろ行きましょうか」
「行くって?」
花梨が尋ねると、北斗と都築が顔を見合わせて笑顔になる。
「俺たち三人の共通の場所って言ったら、あそこしかないだろ?」
「本当に部室って入ってもいいの?」
「えぇ。今日は卒業式で残っている人もほとんどいませんからね。もちろん文芸部も休みですし」
三人は部室棟に向かって歩き始めたが、懐かしさと共にあの頃の記憶が蘇って来るような不安を感じ、北斗の手を強く握りしめた。
「もし嫌だったら行かなくてもいいよ」
耳元でそう囁かれ、花梨はそっと目を伏せた。一人だったらすぐにでも踵を返して帰っていたかもしれない。でも今は北斗がいる。辛くなった時に今の彼を見れば、きっと不安な気持ちを吹き飛ばしてくれるに違いない。
「ううん、大丈夫。ありがとう」
花梨が答えると、北斗は花梨の頭を引き寄せ額にキスをした。
車を降りた花梨は、懐かしい校門と、その先に見える白い校舎を目の当たりにし、驚いた顔で北斗を見た。
「高校……えっ、どうして?」
「部室が今どうなっているか、見てみたいって前に言ってたよね」
「見たいけど、今日って生徒がいるんじゃ……」
「卒業式だったんだって。だから今残ってる生徒は、少しだと思うよ」
まるで誰かに聞いたかのような話ぶり──そう思っていると、
「先輩!」
と声をかけられる。
花梨と北斗が揃って声のした方を見ると、そこにはスーツに身を包んだ一人の男性が立っていた。短い黒髪とメガネをかけたその顔に、花梨は見覚えがあった。
「もしかして……都築くん?」
「正解です。お久しぶりですね、お元気そうで何よりです」
「本当に久しぶり。元気だった? あっ、本も全部読ませてもらってるよ」
「元気ですよ。ありがとうございます。俺も先輩の絵本、全部家にあります。先輩が卒業して以来ですよね。北斗先輩はしつこいくらいに連絡してきますけど」
都築は不愉快そうに眉間に皺を寄せた。
「そんなこと言うなよー」
嫌がる都築の肩を抱く北斗からは、彼に心を許している様子が窺える。そんな姿を初めて見た花梨は、新しい発見に嬉しくなった。
「いいだろ? 都築が一番信用出来る友達なんだから」
「はいはい。わかりましたよ。先輩は俺のことが大好きなんですよね」
「まぁそういうことかな」
「あはは。話は聞いてたけど、本当に仲良しなんだね」
そう言いながらクスッと笑うと、北斗は都築から離れて花梨の隣に立って手を握った。
「北斗くん?」
「危うく道を踏み外すところだった。俺の一番は花梨だからね」
北斗が真剣な表情でそう言ったが、花梨と都築はポカンと口を開けてから、突然笑い始める。
「別にそんなふうに思ってないよ」
「やめてくださいよ。北斗先輩の一番が山之内先輩だなんて、高校の時から知ってますよ。じゃあ話はこれくらいにして、そろそろ行きましょうか」
「行くって?」
花梨が尋ねると、北斗と都築が顔を見合わせて笑顔になる。
「俺たち三人の共通の場所って言ったら、あそこしかないだろ?」
「本当に部室って入ってもいいの?」
「えぇ。今日は卒業式で残っている人もほとんどいませんからね。もちろん文芸部も休みですし」
三人は部室棟に向かって歩き始めたが、懐かしさと共にあの頃の記憶が蘇って来るような不安を感じ、北斗の手を強く握りしめた。
「もし嫌だったら行かなくてもいいよ」
耳元でそう囁かれ、花梨はそっと目を伏せた。一人だったらすぐにでも踵を返して帰っていたかもしれない。でも今は北斗がいる。辛くなった時に今の彼を見れば、きっと不安な気持ちを吹き飛ばしてくれるに違いない。
「ううん、大丈夫。ありがとう」
花梨が答えると、北斗は花梨の頭を引き寄せ額にキスをした。