妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
「あっ、あの、そういえばずっと気になっていたんだけど、北斗くんが手紙を送ってくれた時の名前、どうして"テディ"だったの?」
それは花梨の中で、どうやっても答えを導き出すことが出来ず、いつか聞こうと思っていたものだった。つい忘れてしまいがちだったが、絵本を前にしてふと思い出す。
「……気付いてくれるかなって、少し期待したんだ」
困ったように笑った彼を見て、やはり何か意味があるのだと悟る。
「俺の名前、北斗七星と同じだろ? 北斗七星って実はおおぐま座の一部で、クマの背中から尻尾にかけてが北斗七星なんだ」
それを聞いた花梨の頭に、テディベアのぬいぐるみが浮かび上がってきた。
「もしかして……おおぐま座だから"テディ"?」
「そう。きっと俺の名前で手紙を出しても、読んでもらえないと思ってさ。それなら北斗に繋がる偽名を作ろうって考えたんだ」
「ごめんね……星にはちょっと疎いから、全然気が付かなかった」
「逆にそれで良かったって思ってるよ。だからこそ、これだけ長く手紙を送ることが出来たわけだしね」
確かにその通りだった。もし北斗だと気付いていたら、きっと今"テディさん"に抱いているような感情になることはなかっただろう。
「花梨、部室に入ってから、すごく楽しそうだけど、嫌な気分にはなっていない?」
「あっ、本当だ。お喋りしながらだったからかな……意外と大丈夫みたい」
「じゃあさ、俺のお願い聞いてくれる?」
すると突然北斗が花梨を抱き上げ、窓辺に移動する。カーテンの前に花梨を立たせると、部屋に差し込む夕焼けが揺れた。
まるであの日、北斗が愛佳にキスをされていたシチュエーションと同じように思えて、少しだけ不快な気分になった。しかし彼の口から聞かれたのは、意外な言葉だったのだ。
「俺、この窓辺にあまりいい思い出がないんだ。だからさ──上書きしてもいい?」
二人のキスを目撃してしまった花梨が不快な気持ちになるのは当たり前だと思っていたが、北斗もそんな気持ちになっていたとは思わなかった。
その驚きが伝わったのか、北斗の手が花梨の髪を優しく撫でる。
「好きでもない人にキスされて、気分いい人間なんていなくない? あの時からずっと花梨が好きだったんだから」
彼の言葉はいつも花梨を幸せな気持ちに導いてくれる。熱くなる胸をギュッと押さえた花梨は、北斗の腕を掴むと、くるりと回転して二人の位置を入れ替える。
そして北斗を、まるで壁ドンをするかのように窓に押し付けた。
「もし上書きするなら……これが正解だと思うの……」
慣れないことをして、恥ずかしさで心臓が跳ね続ける。最初は目を瞬いていた北斗だったが、声を上げて笑ったかと思うと、花梨の体に腕を回した。
「じゃあ花梨が上書きして。すっかり忘れられるようかに、出来れば長めがいいな」
北斗が目を閉じたので、少しだけ緊張が解ける。花梨は意を決すると、北斗の唇に自分の唇を重ねた。
それは花梨の中で、どうやっても答えを導き出すことが出来ず、いつか聞こうと思っていたものだった。つい忘れてしまいがちだったが、絵本を前にしてふと思い出す。
「……気付いてくれるかなって、少し期待したんだ」
困ったように笑った彼を見て、やはり何か意味があるのだと悟る。
「俺の名前、北斗七星と同じだろ? 北斗七星って実はおおぐま座の一部で、クマの背中から尻尾にかけてが北斗七星なんだ」
それを聞いた花梨の頭に、テディベアのぬいぐるみが浮かび上がってきた。
「もしかして……おおぐま座だから"テディ"?」
「そう。きっと俺の名前で手紙を出しても、読んでもらえないと思ってさ。それなら北斗に繋がる偽名を作ろうって考えたんだ」
「ごめんね……星にはちょっと疎いから、全然気が付かなかった」
「逆にそれで良かったって思ってるよ。だからこそ、これだけ長く手紙を送ることが出来たわけだしね」
確かにその通りだった。もし北斗だと気付いていたら、きっと今"テディさん"に抱いているような感情になることはなかっただろう。
「花梨、部室に入ってから、すごく楽しそうだけど、嫌な気分にはなっていない?」
「あっ、本当だ。お喋りしながらだったからかな……意外と大丈夫みたい」
「じゃあさ、俺のお願い聞いてくれる?」
すると突然北斗が花梨を抱き上げ、窓辺に移動する。カーテンの前に花梨を立たせると、部屋に差し込む夕焼けが揺れた。
まるであの日、北斗が愛佳にキスをされていたシチュエーションと同じように思えて、少しだけ不快な気分になった。しかし彼の口から聞かれたのは、意外な言葉だったのだ。
「俺、この窓辺にあまりいい思い出がないんだ。だからさ──上書きしてもいい?」
二人のキスを目撃してしまった花梨が不快な気持ちになるのは当たり前だと思っていたが、北斗もそんな気持ちになっていたとは思わなかった。
その驚きが伝わったのか、北斗の手が花梨の髪を優しく撫でる。
「好きでもない人にキスされて、気分いい人間なんていなくない? あの時からずっと花梨が好きだったんだから」
彼の言葉はいつも花梨を幸せな気持ちに導いてくれる。熱くなる胸をギュッと押さえた花梨は、北斗の腕を掴むと、くるりと回転して二人の位置を入れ替える。
そして北斗を、まるで壁ドンをするかのように窓に押し付けた。
「もし上書きするなら……これが正解だと思うの……」
慣れないことをして、恥ずかしさで心臓が跳ね続ける。最初は目を瞬いていた北斗だったが、声を上げて笑ったかと思うと、花梨の体に腕を回した。
「じゃあ花梨が上書きして。すっかり忘れられるようかに、出来れば長めがいいな」
北斗が目を閉じたので、少しだけ緊張が解ける。花梨は意を決すると、北斗の唇に自分の唇を重ねた。