偽装婚約者は愛したがりの年下御曹司
ずい、と顔を近づけてきた彼が、掬うような目をして私を見る。
欲にまみれ下卑た眼差しが不快で、思わず顔を背ける。
直樹はまさか、私だけでなく黎也くんからもお金を引き出そうとしているの……?
「そんなことできるわけないでしょう。どうしてすぐ人に頼ろうとするの? 直樹、今仕事はなにをしてるの?」
「んー? まぁ、新しい会社作ったりやめたり、パッとしないんだよ。だからさ、今度ダメもとで頼んでみて。御曹司に小遣いちょうだいって」
「頼めるはずないでしょ……? もう帰って!」
「んだよ、すっかりつれなくなっちゃって……。女って結局金だよな。じゃあま、今日はいいや。また来る」
また来る……? 嘘でしょ? 何度来たって彼に渡せるものなんてないし、黎也くんに迷惑をかけるのはもっとあり得ない。
どうしよう。今の口ぶりだと、彼は絶対にまた私に接触してくる……。
直樹は大人しく立ち去ったものの、彼に与えられた恐怖や嫌悪感がなかなかぬぐえず、帰宅してからもなかなか気が休まらなかった。