御門くんの執愛攻めには抗えない~策士な年下御曹司は偽装婚約で愛し堕とす~
「よしっ。終わった」
その日は珍しく定時の六時に仕事が片付き、気分がよかった。
相変わらず家計を切り詰めてはいるものの、たまには自分へのご褒美に缶ビール一本くらい買ってもいいだろうか。
上機嫌にそんなことを思いながら帰り支度を終え、オフィスを出て会社の外へ。
外はすっかり暗く、冷たい風も吹いていて鼻の頭が冷たくなる。
今夜はビールと鍋料理がいいかな……最近、白菜が安いし。
寒さに身を縮めて夕食に思いを巡らせながら、数歩足を進めたその時。
「美冬」
聞こえてきた男性の声に、ぎくりと体が硬直した。
なんで……? なんで彼の声がするの?
おそるおそる声のした方を振り向くと、半年前に私の渡したお金を持ったまま連絡が取れなくなっていた元恋人、峰田直樹がそこにいた。
「直樹……」
「よかった、まだここに勤めてたんだな」
そう呟いた彼は、へらりと軽薄な笑みを浮かべて歩み寄ってくる。一応スーツとネクタイを纏っているものの、どこかくたびれた印象を受ける。
それは、彼が私よりふたつ年上だから……という年齢的なものではない気がした。
驚きと戸惑いとでその場を一歩も動けずにいると、直樹が目の前までゆらりと近づいてきた。胸のざわめきが大きくなり、嫌悪感が募る。