御門くんの執愛攻めには抗えない~策士な年下御曹司は偽装婚約で愛し堕とす~
「私の婚約者になにかご用ですか?」
目の前にぬっと影がかかったと思った瞬間、私の前にひとりの人物が立ちはだかっていた。このところ私を悩ませる存在だった彼が、今は誰より頼もしく見える。
婚約者というのは、きっと副社長の機転だ。今は直樹を追い払うために、私も彼に合わせておくのが賢明だろう。
「黎也くん……」
緊張気味に、彼の名前を読んでみる。『黎也さん』とか『黎也』と呼んでもよかったけれど、昔彼を『御門くん』と呼んでいた時期があるので、それをちょっとアレンジしてみた。
直樹は私に婚約者という存在がいるのが予想外だったのか、私と副社長の顔を交互に見て驚いた顔をしている。
副社長は私にぴたりと寄り添い、肩をギュッと抱いた。
大きな手に包み込まれる感覚にどきりとする。
「美冬さんが怖がっています。用がないのならお引き取りください」
「あっ、はい。用というほどの用じゃなかったんで……失礼します」
元恋人にお金の無心をしている姿を他人に見られたくはないのか、突然現れた婚約者の存在に腰が引けたのか、直樹はあっさり引き下がる。
もう二度と会いに来ないでと、彼の背中を見ながら胸の内で呟く。
そそくさと会社の前を離れた直樹は、やがてオフィス街の雑踏に紛れて見えなくなった。
副社長が、ふう、と息をつく。