御門くんの執愛攻めには抗えない~策士な年下御曹司は偽装婚約で愛し堕とす~
「大丈夫ですか? 帰ろうとしたら姿が見えたので気になって……」
こちらを振り向いた副社長の眼差しが優しかったので、うっかり瞳が潤んでしまう。
それを隠すように何度か瞬きし、私はしっかりと頷いた。
「すみません、ありがとうございました。副社長が来なかったら、私……」
その先を考えるとつらくなり、言葉に詰まってしまう。副社長はそんな私を見下ろして、静かに語りかけてくる。
「美冬さんは聞いてほしくないのかもしれませんが、あんな場面を見てしまったら、黙っていられません。事情を話していただけますか?」
「……わかりました」
助けてもらった手前、さすがに拒否することはできなかった。
直樹との過去を誰かに話すのは久しぶりだ。大きなかさぶたを初めて剥がす時のような不安と、その下にある傷が治っていればいいと願う気持ちとが、胸の中で混じり合う。
「ありがとうございます。ここでは落ち着きませんから、会社から少し離れた喫茶店にでも入りましょうか」
「はい」
私たちはそれから副社長の手配してくれたタクシーに乗り込み、彼がよく行くのだという喫茶店に向かう。
タクシーの車内はエアコンで暖まっていて、直樹と対峙してからずっと冷えたままだった頬や指先が、少しずつ体温を取り戻していった。