御門くんの執愛攻めには抗えない~策士な年下御曹司は偽装婚約で愛し堕とす~

『――副社長、大丈夫ですか?』

 長い間黙り込んでいたせいだろう。スマホから、心配そうな谷村さんの声が聞こえてきた。

 俺は深呼吸をして自分を落ち着かせようとしたものの、どうしても平常心ではいられなかった。

「大丈夫……ではありません。彼女が心配なので、すぐに才賀先生の事務所へ向かいます」
『よろしくお願いします』

 谷村さんとの通話を終えると、俺はエレベーターまで急ぎ、せっかちにボタンを押してドアが開くのを待った。

 エレベーターで駐車場のある地下に降り、車に飛び乗り才賀誉の事務所に到着するまでの間も、美冬さんが彼に迫られる妄想が何度頭の中に広がりかけ、そのたびに必死で自分をなだめた。


 二十分弱で彼の事務所に到着し、建物に入ると受付にまっすぐ進んだ。

 前回訪問した時に一度顔を見たことのある女性が「あっ」と友好的な笑みを浮かべたものの、俺は笑顔を作っている余裕などなく、手短に用件を伝える。

「突然失礼します。こちらにうちの芦屋という社員がお邪魔していると思うのですが」
「はい。芦屋さんでしたら、先生のお部屋に」

 受付の女性が手のひらで示したのは、才賀誉の仕事部屋に続く木製のドア。俺はそれをじろりと睨みつけて言う。

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