御門くんの執愛攻めには抗えない~策士な年下御曹司は偽装婚約で愛し堕とす~
「昔から、あなたってなんでもできるタイプだったじゃない? 怒ったり、焦った顔もあんまり見たことがなかった。でも、才賀先生の事務所に乗りこんできた時は、すごく必死に見えた。きっとなにか勘違いしているってすぐにわかったけれど……その勘違いは、誰を想うがゆえ?って思ったら、胸がぎゅっとした」
「美冬さん……」
自分の気持ちを打ち明ける彼女の声は、まだ少しなにかを怖がっているように震えていた。
今日が休日で、今運転しているのが自分の車だったなら、どこかに止めてすぐに彼女を抱きしめ、キスをしたかった。もう怖がらなくていいんだよと、安心させるために。
しかし、残念ながらこれは社用車だし、間もなく昼休みも終わってしまう時間だ。
大人というのはなんと不自由な生き物だろうと思いながら、それでも彼女の心に寄り添いたくて、口を開いた。
「もしも、あなたの元恋人が二度と現れなくて、偽装の関係なんか必要なくなったとしても、俺はあなたを手放しはしません。どうか、信じてください」
美冬さんは、しばらく黙っていた。俺の言葉をゆっくりかみ砕いて呑み込もうとしてくれているのだろう。
「今すぐに、イエスと答えることはできないけど……あなたのことなら信じてもいいのかもって、思う自分もいる。……なんて。思わせぶりなこと言って、結局はハッキリしなくてごめんなさい」
「いえ。美冬さんが心に負った傷を思えば当然です。……さて、そろそろ仕事モードに切り替えましょっか。このままでは午後の業務の間ずっとにやけてしまいそうなので」
焦らなくていいと美冬さんに伝えるためにも、彼女の心に踏み込むのはこれくらいにしておく。
美冬さんは俺の冗談にふっと微笑んで、「はい」と頷いてくれた。