罠に落とされた生贄姫は、荒野の悪魔の最愛となる
 王宮の長い廊下を思案げに歩く宰相ルドルウィンは、背後からかけられた声に足を止めた。
 
​「ルドルウィン」
 
​ 名を呼ばれると同時に、彼は何者かに素早く空部屋へと引っ張り込まれた。ルドルウィンは不意のことに息を呑んだが、顔を上げた瞬間、その表情は驚愕から一瞬で恍惚とした色へと変わった。
 目の前に立つのは先程まで悲嘆にくれていた第二王女、エミリーだった。その目元はまだ赤く、瞳は微かに潤んでいる。
​ 身を乗り出し彼女の顔に触れようとするルドルウィンを、細い指がそっと押し留める。

「お姉さまは本当に亡くなられたの?」
「ええ。馬車は魔王の館に停められたきり。一行の姿をそれ以来見た者もいないそうです。噂では魔王によって、その身体が一瞬で消えてしまったのだとか」
「――そう」

 肩を震わせたエミリーは、一瞬顔を伏せる。
 ――しかし再びルドルウィンを見上げたその顔には、先程までとはうってかわって蠱惑的な笑みが浮かんでいた。

「よくやったわね、ルドルウィン」

 労うように彼の肩に軽く腕を伸ばしたエミリーに、宰相は頬を弛緩させる。
 
「けど」

 更に顔を近づけて、そっとその耳元に囁く。
 
「王位の話を持ち出すのは少し急ぎすぎたわね」
「――っ!申し訳ありません」
 
​ 慌てて深く頭を下げる男に、目を細めたエミリーだったが「でも、」と言葉を続ける。

「言いつけを守った良い子にはご褒美をあげなくてはね」

 思わせぶりにドレスのリボンを解き、胸元を露わにすると目の色を変えた宰相は、その華奢な身体を掻き抱く。

「――これから魔王は何か言ってくるかしら?」
「言ってきたとしても、エミリー様が心配することは何もございません。野蛮な奴らなど全て私が始末いたしましょう」

 肩越しのエミリーの呟きに、荒い息を吐くルドルウィンが熱っぽく答える。
  
「――そう、それは頼もしいわ」
 
​ エミリーの肌を味わうことに夢中のルドルウィンは気が付かない。その顔に、いつもの幼さを残した様子がないことを。代わりに浮かんでいたのは、恐ろしい陰謀を企む悪魔のような表情だったということを。
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