辣腕クールな脳外科医は、偽りの婚約者を甘く堕として妻にする
彼女との癒しのひととき
「小早川先生、行ってらっしゃい」
匠真が伊吹会総合病院の裏口を通ったとき、守衛の男性が声をかけてきた。
「行ってきます」
匠真は軽く会釈をして、秋の日差しの中に出た。
祖父が理事長を、父が院長を務めるこの病院で、匠真は脳外科医として働いている。
日本の大学病院で後期研修を修了した後、アメリカに渡ってニューヨーク州の病院で働いていたが、一年近く前、三十三歳のときに日本に戻ってきた。
今日は早朝に脳動脈瘤の緊急手術に対応し、押していた午前中の診療を終えて、これから束の間の休息である。
目的地はカフェ・プラチナだ。毎日は難しいが、行けるときは必ず行くようにしている。病院からは徒歩五分ほどの住宅街の一角にあり、駅を通り過ぎた先にあるため、同僚や患者に出くわすことはあまりない。
ドアを引くと、カランというベルの音とともに、「いらっしゃいませ」と何人かの明るい声が聞こえてきた。
「小早川さん、いらっしゃいませ」
中に入ると、落ち着いた茶色のセミロングヘアで、少しふっくらした頬の小柄な女性が、匠真に笑顔を向けた。二週間ほど前からプラチナで働き始めた代田沙耶だ。
「こんにちは」
匠真は軽くうなずいて店内を見回した。午後二時を過ぎたこの時間、店内のテーブル席はほぼ埋まっていた。客層はさまざまで、高齢の夫婦や女性グループが談笑し、休憩中のビジネスマンと思しきスーツの男性がコーヒーを飲み、母親が二歳くらいの女の子にスフレチーズケーキを食べさせている。
最近は空席が目立つことが少なくなり、今も空いているのは入り口に近いカウンター席だけだった。
「よろしければテラス席にご案内しましょうか?」
沙耶が言って、店の奥にあるテラスの入り口を視線で示した。
「ありがとう。お願いするよ」
匠真の返事を聞いて、沙耶が横引きのガラス戸を開けた。
「どうぞ。まだ寒くはないと思うんですが、膝掛けがありますので、必要でしたらおっしゃってくださいね」
「ありがとう」
匠真が伊吹会総合病院の裏口を通ったとき、守衛の男性が声をかけてきた。
「行ってきます」
匠真は軽く会釈をして、秋の日差しの中に出た。
祖父が理事長を、父が院長を務めるこの病院で、匠真は脳外科医として働いている。
日本の大学病院で後期研修を修了した後、アメリカに渡ってニューヨーク州の病院で働いていたが、一年近く前、三十三歳のときに日本に戻ってきた。
今日は早朝に脳動脈瘤の緊急手術に対応し、押していた午前中の診療を終えて、これから束の間の休息である。
目的地はカフェ・プラチナだ。毎日は難しいが、行けるときは必ず行くようにしている。病院からは徒歩五分ほどの住宅街の一角にあり、駅を通り過ぎた先にあるため、同僚や患者に出くわすことはあまりない。
ドアを引くと、カランというベルの音とともに、「いらっしゃいませ」と何人かの明るい声が聞こえてきた。
「小早川さん、いらっしゃいませ」
中に入ると、落ち着いた茶色のセミロングヘアで、少しふっくらした頬の小柄な女性が、匠真に笑顔を向けた。二週間ほど前からプラチナで働き始めた代田沙耶だ。
「こんにちは」
匠真は軽くうなずいて店内を見回した。午後二時を過ぎたこの時間、店内のテーブル席はほぼ埋まっていた。客層はさまざまで、高齢の夫婦や女性グループが談笑し、休憩中のビジネスマンと思しきスーツの男性がコーヒーを飲み、母親が二歳くらいの女の子にスフレチーズケーキを食べさせている。
最近は空席が目立つことが少なくなり、今も空いているのは入り口に近いカウンター席だけだった。
「よろしければテラス席にご案内しましょうか?」
沙耶が言って、店の奥にあるテラスの入り口を視線で示した。
「ありがとう。お願いするよ」
匠真の返事を聞いて、沙耶が横引きのガラス戸を開けた。
「どうぞ。まだ寒くはないと思うんですが、膝掛けがありますので、必要でしたらおっしゃってくださいね」
「ありがとう」