辣腕クールな脳外科医は、偽りの婚約者を甘く堕として妻にする
すっかりリラックスして最後のひと口を食べおえたとき、突然、店内から大きな泣き声が聞こえてきた。急病人が出たのか、と反射的に気を引き締めたが、小さな子連れの女性がいたことを思い出した。
見るとはなしに視線を向けたら、三十歳くらいの母親が、ケーキを食べていた手を止めて、泣きそうな顔になっている。
「泣かないで。ね、お願い。ママ、もうすぐ食べおわるから」
母親が子どもを抱き上げて立ち上がろうとした瞬間、沙耶がエプロンを外してふたりに近づいた。
「あの、よろしければ私がお子さんを見てますよ」
「でも、ご迷惑じゃ」
女性は子どもの肩に手を置いて、目を潤ませて言った。
「大丈夫ですよ、お気になさらず」
「すみません……じゃあ、お言葉に甘えて、少しの間、お願いします。すぐに食べおわりますので……」
「お任せください。今日のケーキは私の自信作なので、ぜひゆっくり召し上がってくださいね」
沙耶は女性に笑顔でうなずいた後、両手を膝に当てて、椅子に座っている女の子と目線を合わせた。
「ね、お庭にお花が咲いてるんだけど、水やり、手伝ってくれる?」
「おはな?」
女の子はしゃくりあげながら声を発した。
「そう。どうかな? ピンクと白のかわいいお花が咲いてるんだよ」
「ぴんく!」
女の子はパッと顔を輝かせた。頬は濡れているが、もう涙を流してはいない。
「ママが食べてる間、一緒に遊ぼ?」
「やったぁ」
女の子が両手を上げ、母親が娘を椅子から下ろした。
「こっちだよ」
沙耶は女の子の手を取ってテラスに案内しながら、匠真に、お騒がせしてすみません、というように頭を下げた。匠真が軽くうなずき返し、沙耶は女の子の手を引いて、テラスから裏庭に続く階段を下りる。
「コスモスっていうお花なんだよ」
「こすもす?」
匠真が首を伸ばすと、ふたりは裏庭の水道でジョウロに水を入れはじめた。水がいっぱいになると、ふたりでジョウロを持ってテラスをぐるりと迂回し、店の表に出た。そうして楽しそうに話しながら、コスモスに水をあげはじめる。
見るとはなしに視線を向けたら、三十歳くらいの母親が、ケーキを食べていた手を止めて、泣きそうな顔になっている。
「泣かないで。ね、お願い。ママ、もうすぐ食べおわるから」
母親が子どもを抱き上げて立ち上がろうとした瞬間、沙耶がエプロンを外してふたりに近づいた。
「あの、よろしければ私がお子さんを見てますよ」
「でも、ご迷惑じゃ」
女性は子どもの肩に手を置いて、目を潤ませて言った。
「大丈夫ですよ、お気になさらず」
「すみません……じゃあ、お言葉に甘えて、少しの間、お願いします。すぐに食べおわりますので……」
「お任せください。今日のケーキは私の自信作なので、ぜひゆっくり召し上がってくださいね」
沙耶は女性に笑顔でうなずいた後、両手を膝に当てて、椅子に座っている女の子と目線を合わせた。
「ね、お庭にお花が咲いてるんだけど、水やり、手伝ってくれる?」
「おはな?」
女の子はしゃくりあげながら声を発した。
「そう。どうかな? ピンクと白のかわいいお花が咲いてるんだよ」
「ぴんく!」
女の子はパッと顔を輝かせた。頬は濡れているが、もう涙を流してはいない。
「ママが食べてる間、一緒に遊ぼ?」
「やったぁ」
女の子が両手を上げ、母親が娘を椅子から下ろした。
「こっちだよ」
沙耶は女の子の手を取ってテラスに案内しながら、匠真に、お騒がせしてすみません、というように頭を下げた。匠真が軽くうなずき返し、沙耶は女の子の手を引いて、テラスから裏庭に続く階段を下りる。
「コスモスっていうお花なんだよ」
「こすもす?」
匠真が首を伸ばすと、ふたりは裏庭の水道でジョウロに水を入れはじめた。水がいっぱいになると、ふたりでジョウロを持ってテラスをぐるりと迂回し、店の表に出た。そうして楽しそうに話しながら、コスモスに水をあげはじめる。