辣腕クールな脳外科医は、偽りの婚約者を甘く堕として妻にする

優しい嘘は恋になる

　翌週の水曜日、沙耶の父が退院後、美咲と一緒にプラチナにやってきた。
　沙耶は【午前中休みをもらって病院まで迎えに行くよ】とメッセージを送ったのだが、父から【母さんが来てくれるから大丈夫。退院後、沙耶が働いているカフェに寄るね】と返ってきたのである。
　店に入ってきた父は血色もよくなっていて、歩く姿も椅子に座る動作もそれまでと変わらない。ほんの数時間前まで入院していたとは思えないほど、調子がよさそうだった。
「沙耶ちゃんのお父さま、退院、おめでとうございます」
　店にいた涼花とチエとヒーコが笑顔で声をそろえた。
「ありがとうございます。それと、いつも沙耶がお世話になっております」
　父が座ったまま頭を下げ、隣で美咲も同じようにした。
「こちらこそ、いつも沙耶ちゃんにはとても助けられています」
　涼花の言葉に照れながら、沙耶は父と美咲の前に紙おしぼりと水の入ったグラスを置いた。
「働いてるところを親に見られるなんて、授業参観のときよりも恥ずかしい」
　そうこぼす沙耶にお構いなしに、父はメニューを広げた。
「おお、どれもおいしそうで迷ってしまうなぁ」
「温かい雰囲気でとてもステキなお店ね」
　美咲が沙耶に笑顔を向け、沙耶は胸を張る。
「でしょ。ありがとう」
　父と美咲はあれこれ迷いながらも、本日のランチプレートのメニュー、〝煮込みハンバーグプレート〟を注文した。牛ひき肉のみを使ったビーフハンバーグをデミグラスソースで煮込んだものだ。
「お待たせしました」
　沙耶が出来上がったランチプレートをふたりの前に置き、美咲が「おいしそう！」と声を上げた。
「いただきます」
　父がフォークとナイフを取り上げて、ハンバーグを口に運ぶ。
「うぅん、うまい！」
　父が声を上げ、沙耶は頬を緩めた。
「そう言ってもらえて嬉しい。お母さんの料理のほうがおいしいとか言われたら、どうしようかと思っちゃった」