(2025改稿版)俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
そのときふと、頼子さんを思い出した。

でも頼子さんなら直接私に連絡をくれるだろうし、そもそも板谷社長は男性のはず。

頭の中で考えつつも、念のため同期に確認する。


「来店されてる方って女性?」


「いや、男性。板谷の取締役社長は三十一歳の独身イケメン」


有名だろ、と同期が付け加える。

やはり頼子さんではない。

どこかで聞いたようなプロフィールだと思っているうちに応接室に到着した。

呼ばれた理由も不明だし、わからない事柄が多い。

不安と緊張で鼓動が速くなる。

さっきまでのんきに蕎麦を食べていたのが信じられないほど、胃がキリキリ痛む。

天下の板谷ホールディングスの不興を買うような真似はできない。

とはいえ仕事なのだからしっかりしなくては、と必死に自分を鼓舞する。


「失礼します。浦部を連れてまいりました」


同期がノックし、ドアを開けて告げる。

室内の中心に置かれた焦げ茶色のソファの上座に板谷社長が座っていた。

面立ちは大きめの観葉植物のせいでよく見えない。

手前に座っていた営業部長が立ち上がった。


「ああ、君が浦部さんか」


なぜか初対面の営業部長が、安堵の表情を浮かべる。


「お待たせして申し訳ございません。ローン事業部の浦部です」


名乗って、頭を下げる。

お客様の前で身内同士の挨拶をすべきではないが、今は仕方がない。

すると、頭上から声が響き、板谷社長が近づいてくる気配を感じた。
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