(2025改稿版)俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
エレベーターホールには営業部長たちがいたせいか、彼は終始柔和な表情を浮かべていた。

ところがエレベーターに乗り込んだ途端、口調と雰囲気が一変した。

綺麗な二重の目が真っすぐに私を射抜き、低い声で問う。


「なんで、逃げた?」


「……社長。浦部様が驚いておられます」


津田さんが呆れたように口を挟む。

秘書の指摘に、彼は面倒くさそうに髪をかきあげた。

長い指からさらりと艶やかな黒髪がこぼれ落ちる。


「あの、先日はご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。介抱していただき、ありがとうございました」


頭を下げ、ずっと伝えたかった礼と謝罪を伝える。


「あの日の記憶があるのか?」


「正直、ほぼ覚えていないのですが、多大なご迷惑をおかけしたと思っています」


恐る恐る顔を上げて、整った面差しを見つめる。


「……時間も時間だし身の安全を危惧して捜せば、泥酔状態でいきなりベラベラ自分の失恋話を披露するわ、泣くわで。挙句の果てに上着と靴を脱ぎ捨てて寝落ち、迷惑と言えば迷惑だな」


衝撃の自身の失態に言葉を失う。

予想以上の状態に血の気が引く。

パンストに穴が空いていた理由がよくわかった。

迷惑をかけられたうえ、宿泊代金は負担させられ、姉にも𠮟られるなんて不愉快極まりなかったはず。

この訪問はその怒りを伝えるためにちがいない。

同僚たちの前で失態を暴露されなかっただけ幸いだったが、どう謝ればいいだろう。
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