(2025改稿版)俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
「……危害を加えるつもりはない。落ち着いて」


先ほどよりは少し優しい声が耳に届く。

なんとかキーケースを見つけ、彼の眼前に差し出す。


「触れても構わない?」


男性は私がうなずくのを確認して、鍵を裏返し、しばらく凝視してから返してくれた。

長い指がそっと私の手のひらに触れた瞬間、トクンとなぜか鼓動が小さく跳ねた。


「これは誰から?」


「頼子さんから、見学のために預かりました」


私の答えに男性はなにかを考え込んだ後、はあ、と短く息を吐いた。


「手荒な真似をして悪かった。それは確かにうちの鍵だ」


「誤解がとけて、よかったです」


うちの、という発言が少し気にかかる。


ここは外食産業国内最大手の板谷(いたや)ホールディングス株式会社が管理している美術館内の庭園だ。

三十一歳の独身御曹司が取締役社長に就任したと世間を騒がせていたのは記憶に新しい。

就任後、収益はさらに右肩上がりで各海外店舗の業績も好調だという。

グループが新規参入したカフェ事業では各店舗に大きなテラス席を設置し、観葉植物や季節の花々を飾るという緑あふれる内装が女性たちから絶大な人気を博しているときく。

板谷ホールディングスは私が勤務している都市銀行の重要取引先でもある。

大手町にある本社のローン事業部所属の私とは直接関りはないため、容姿など細かい事情までは知らない。

多忙な板谷社長のアポイントメントはほぼ取れず、賀詞交換会にも来ていただけないと社内でよく噂されていた。
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