(2025改稿版)俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
板谷ホールディングスに勤務している頼子さんの名前を尋ね返さないし、知り合いなのかもしれない。

だとしたら、あえて男性の素性などを確認する必要はない気がする。

ここで眠っていたくらいだし、別の鍵を持っている可能性だってある。

もしかしたら責任ある立場の人かもしれない。 

きっと再び会う機会もないだろう。


「では誤解もとけたようなので、失礼します」


小さく独り言のように告げた私に、男性は渋面を浮かべて問う。


「俺になにか言うことはない?」


「ええと、体は大丈夫ですか?」


まさかあなたの勤務先、役職は?なんて直接的に尋ねられないし、そもそも気になる事柄はひとつしかない。


「……体?」


「先ほど苦しそうな声を出されていたので。もし体調が悪く、救急病院を受診されるならタクシーを呼びます」


「……それが気になるのか?」


彼の問いかけにうなずく。

すると男性が眉尻を下げ、ハハッと笑い声を漏らす。


「疑われて失礼な振る舞いをした相手の心配をするとか……お人よしすぎる」


「ただ気になっただけですから」


若干バカにしたような物言いが少し引っ掛かりつつも素っ気なく答える。

そして、そのまま踵を返して歩き出す。

正直に心配を口にしただけなのに、となんとなく釈然としない思いを抱える。

それから男性がいた場所と真逆の位置にあるベンチに向かう。

そこには誰もおらず、バッグを置いて腰かけた。
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