蝶々結び【完結】
そして、破局の日。
日勤の終わり。
廊下に夕日が差し込んで、ガラス窓の反射が眩しかった。
ナースステーションから医局の方を見やると、そこにいた。
白衣の袖越しに見えた、あの背中。
隣には、後輩の若い看護師だった。
まだ二十代前半で、誰からも可愛がられている子だった。
笑い声。
そして――抱きしめる仕草。
呼吸が止まった。
世界が、一瞬だけ、音を失った。
足元がふらつき、壁に手をついた。
心の中で何かが「ぷつん」と音を立てて切れた気がした。
――「結衣…ごめん。」
頬を叩く音が、医局の中に響いた。
それでも涙は出なかった。
「さようなら。」
たったそれだけの冷えきった言葉を残して、結衣は背を向けた。