後悔しない、ひとつのこと

母side

目を覚ますと、いつもと違う天井が見えた。

「七瀬先生!目が覚めたんですね」

声がした方を見ると、よく顔を合わせる看護師の子だった。

「なんで....ここに..」

私は何をしていたんだっけ。

「自宅で倒れていらしたんです」

「家で!?」

驚いてつい、飛び起きた。

ズキッ

「いった....」

腹部が鋭く痛む。

「無理しないでください。刺されていたんですから」

「刺されてた.....家で...」

頭にあの時のことが蘇る。

あの日は珍しく爽が遅かった。

時間も遅くなっていたから、心配だったんだ。

やっと帰ってきたと思ったら__爽じゃなかった。

知らない男で。

刺されて。

そしたら爽が帰ってきて...

........え?爽が、帰ってきた。

その時、男は?

.....まだいた

「ねえっ!」

「は、はいっ?」

怯えるように返事をした。でも気にしてられなかった。

「爽はっ?知らない?」

手を掴んで祈りながら尋ねる。

どうか、無事でいて_

「娘さん、ですよね」

苦しそうな表情をして、ためらいがちに言う。

「娘さんは....お亡くなりになりました」

''亡くなった''

受け入れられなかった。

私がこれまで何回も、何百回も

遺された家族に。

友人に。

恋人に。

幼い子の親にも。

沢山言ってきたその言葉が。

自分の娘に向けられた瞬間。

頭では理解できても、心は理解出来なかった。
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