自称ぽんこつ令嬢は今日も記憶をなくしたいのに、殿下の溺愛が止まりません。
 香ばしい匂いの中に、いつもとは違う匂いが混じっているからです。
 そしてスプーンでお茶を掬うと、ご丁寧にこちらからも同じ匂いがしてきます。

 せっかくの美味しいお菓子と紅茶が台無しです。
 楽しみにしていただけに、食べ物をこんな風に使うなんて許せません。

「衛兵」

 リオン様が短く低い声を上げると、すぐにドアの前に控えていた兵士たちが流れ込み、そしてすぐにその場にいた侍女を捕縛する。

「こ、これは何かの間違いです。わたくしは何もしておりません」

 侍女は涙を湛え、必死に自分ではないとリオン様に懇願していた。

「でも、あなた、殿下の侍女ではないですわよね。その新しい服も、盗んだのではなくて?」

 本当の侍女ならば、新しい制服を下ろす前に水通しをしているはず。しかし彼女の着ている制服からはその匂いすら感じられません。

「そ、それは……」
「言い訳は牢で聞くとしよう。連れて行け」
『はっ』

 両脇を兵士に抱えられ、項垂れた侍女は連行されて行きました。

「全く、僕には毒はほとんど効かないというのに、ご苦労なことだ」

 王族であるリオン様は幼い頃よりありとあらゆる毒に慣らされるために、少量ずつ毒を口にされていたそうです。
 王族で、しかも後継者となる者は常に暗殺の危険が伴います。

 そのための苦肉の策だそうですが、少量ずつはといえ毒は毒で、昔からとても苦労されていたのです。

「今回の毒は、リオン様を狙ったものだったのでしょうか……」

 リオン様に大抵の毒が効かないというのは、王宮に住まう者ならば皆知っていることです。
 それなのに、なぜこのタイミングでリオン様に毒を盛ろうとしたのでしょう。

 何かが引っかかる。そんな気がして声をあげれば、同じことを考えていたリオン様が大きく頷く。

「そうだね、他の者もこのお菓子たちを口にしていると大変だ。他の兵には厨房へ行くように言って、僕たちは父上たちのとこへ行こう」

 胸の奥がざわざわとして嫌な予感がする。
 こういう時の勘は、当たらないでと思えば思うほど悪い方に当たってしまうものです。

 私はリオン様に手を引かれ、王様と王妃様のいるお部屋へ走り出しました。
< 6 / 10 >

この作品をシェア

pagetop