【完結】売られた令嬢は最後の夜にヤリ逃げしました〜平和に子育てしていると、迎えに来たのは激重王子様でした〜
この場で自分のことではなく人のために動ける令嬢がどのくらいいるだろうか。
それだけでも彼女の優しや性格がわかるような気がした。
笑顔を浮かべてはいるものの額には汗が滲んでいて足元が覚束ない。
アデラールは彼女が魔力切れを起こしかけているのだと思った。
少し休んでもらいでお礼をしようと考えていると、彼女は頭を下げてどこかに走り去ってしまう。


『──待ってくれ!』


そう声をかけたとしても彼女の足は止まらなかった。背を向けたまま振り返ることすらなかった。
アデラールの手元には綺麗に修復されたジャボ。マリアの手にはハンカチがある。


『これが……運命?』


マリアの口から漏れた言葉は、アデラールも思ったことだ。
一目見て彼女が特別だと理解できた。見慣れたものと違う彼女だけの特別な力。
いつのまにかマリアの涙も止まり、ハンカチを食い入るように見つめている。
いつもは令嬢をすぐに邪険にするマリアだが、今回の反応は珍しく映った。

そのまま執事たちに呼ばれて、アデラールは無事会場に戻り挨拶することができた。それも彼女のおかげだろう。
あの後、マリアは蝶の刺繍が入ったハンカチを大切に保管していた。
パーティーで崩してしまった体調もよくなり、アデラールが部屋を訪れると……。


『お兄様、わたくしあの方が相応しいと思うの』

『…………え?』

『こんな気持ち初めて……なんだか不思議な感じがするわ』
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