至上最幸の恋
 ピアノのレッスンが終わって帰宅したあと、3年前に瑛士さんからいただいたオルゴールを、鍵つきの箱へそっとしまった。

 私にとって、瑛士さんがかけがえのない方であることは変わらない。あの方のおかげで、いまの私があるから。とてもとても、大切な存在だわ。

 だから尊敬と感謝の気持ちだけを残しておくの。愛の夢とは、もうお別れ。

 そう心に決めたら、よりお仕事に身が入るようになった。余計なことは考えず、自分を出さず、求められていることにだけ精一杯お応えする。それだけを心がけた。

 日曜日が近づいても、不思議と心は静かなままだった。もう子どもじゃないもの。自分の気持ちくらい、きちんとコントロールできる。しっかり幕が引けると思った。

 そして土曜日。
 青山の撮影スタジオに入ると、磯崎さんがいつものように笑顔で迎えてくださった。

「少し雰囲気が変わったかな?」
「そうですか?」
「うん、なんだか……いや、今日もよろしくね」
 
 優しく微笑んで、磯崎さんは機材のセッティングに戻った。一瞬、表情が曇ったように見えたのは、気のせいかしら。
 少し気になるけれど、ひとまずヘアメイクのために控室へ向かった。

 別人になっていくこの時間にも、かなり慣れてきた。
 ファッションモデルは、自分をアピールする仕事じゃない。服やブランドの魅力を引き出すことが役目。そのためには、私自身は前に出ないほうがいいのかもしれない。
< 152 / 168 >

この作品をシェア

pagetop