至上最幸の恋
 私に光をくれた、大切な言葉だったのに。どうして忘れてしまっていたのかしら。

 ただの人形みたいでいるだけなら、私である意味がない。自分にしか出せない色を出すのが、プロのお仕事のはずじゃない。
 よく分かっていたはずでしょう。自分の心が、どれほどピアノの音色に影響するのか。

 本当に情けないわ……ごめんなさい、瑛士さん。

「ありがとうございます。私、間違っていました」

 こみ上げてくるものを堪えながら言うと、磯崎さんは静かに頷いた。
 
「大丈夫そう?」
「はい。ご心配をおかけして、すみませんでした」
「じゃあ10分後に撮影を再開するよ。いけるかな?」
「ええ、もちろんです」
 
 この方と一緒にお仕事ができて、本当によかった。
 人の心を深いところまで見て、それでも必要なことは曖昧にせず、真っすぐ伝えてくださる方だもの。

 これ以上、自分を見失わないようにしなくちゃ。磯崎さんの誠実なお気持ちに、しっかりお応えしたい。

「エリサさん」

 簡単にメイク直しをしていただいて控室を出ると、心配そうな表情の黒瀬さんが声をかけてきた。

「大丈夫ですか?」
「ええ。問題ありませんわ」
「変なことは言っていないので、安心してくださいね」

 場を和ませるように、磯崎さんが軽く言葉を添えた。
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