至上最幸の恋
 タクシーに乗ったはいいものの、なんとなく真っすぐ帰る気になれなくて、東京駅付近で車を降りた。

 少し疲れた様子のサラリーマン、幸せそうな家族連れ、初々しいカップル。すっかり日が落ちた東京駅には、たくさんの人が行き交っている。

 誰も私を見ないし、気にしていない。それがとても心地いい。

 心の中は、少しも静かではない。けれど街のざわめきに紛れると、それすら隠してもらえる気がした。だからもう少しだけ、ここにいたかった。

「明日から、また頑張らないとね」

 少し遠くから駅舎を眺めて、自分に言い聞かせる。
 そのとき、視界の端に見覚えのある姿がよぎった。

 まさか、と思って目を向ける。人波の向こうを歩いていたのは、律さんだった。
 隣には見知らぬ男性。しかもふたりは、親しげに腕を組んでいる。

 遅くまでお仕事だと、瑛士さんはおっしゃっていたのに。胸の奥が、ひやりと冷たくなった。
 見間違いであってほしい。そう思いたかったけれど、その横顔は、見覚えのあるあの人そのものだった。

 目を逸らしたいのに、どうしても逸らせない。知ってはいけないことに触れてしまったような気がして、息が詰まる。

 足が地面に縫いつけられたように立ち尽くす私を残して、ふたりの姿は夜の人混みへと紛れていった。
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