至上最幸の恋
 ここのところ律が家を空けることが多いのは、気持ちが外へ向いているからなのかもしれない。

 いや、律はよくやってくれているじゃないか。仕事で遅くなったり外泊したりするときも、オレのために食事をしっかり用意している。

 それに、オレが絵を描くことについても、なにも口出ししなくなった。以前は、まだ描くのかと呆れていたのに。

 きっと、制作に集中できるように気を遣ってくれているだけだ。こんなに支えてもらっているのだから、やはりもっと描かなければ。

「どうした?」

 オレが黙り込んでしまったので、慧が怪訝そうに首を傾げる。

「いや。子どものことは、そのうち考えるさ」
「まぁ、授かりものだしな。計画通りになるとも限らないし」

 慧は、夏の終わりに長男が生まれたばかりだ。いまは育児に奮闘しているようだが、表情は幸せそうだった。

 いつかは、オレにもそういう日が訪れるのだろうか。まったく想像がつかない。そもそも、オレに父親が務まるとは思えなかった。

「なんにしても、律さんとは、きちんと会話しろよ」
「ああ、そうだな」

 会話は足りていない。その自覚はある。
 いまの絵を描き上げたら、ふたりで食事にでも行くか。結婚記念日すら、ろくになにもできなかったしな。
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