至上最幸の恋
 オレは人としてなにかが欠落しているのかもしれない。
 いつも自分のことばかりで、こんなに温かく優しい料理を毎日作ってくれる律に、なにも返せないなんて。

 自分を責める言葉ばかり浮かんでしまう。
 それでも、律の作った料理を食べると、少し心が落ち着いた。
 
「ウマいな」

 無意識に呟いていた。
 律が目を細めて、向かいに腰を下ろす。こうして向かい合って食事をする時間は好きだった。

 なにひとつ、当たり前ではない。崩れはじめてから気がつくなんて、遅すぎるな。

「いつもありがとう」
「なに、突然」

 らしくないのは分かっている。ただ、言葉にして伝えたことがなかったと、いまさら気づいた。言葉どころか、ほかの形でも気持ちを伝えてこなかった。

「いや、本当にありがたいと思ってな。絵を描くことしか頭にないオレのために、ここまでしてくれて」
「当たり前でしょう。あなたの妻なんだから」

 当たり前、か。オレは夫として当たり前のことを、なにひとつできていないというのに。

 律がなぜ嘘をついたのか、その真意は分からない。ただ、この平穏な時間が、いつまでも続いてほしい。初めてそう思った。

 もう手遅れなのか。いや、オレがなにも知らないふりをしていれば、このままでいられるかもしれない。

 しかし、それは本当に律の……オレたちふたりのためになるのか。
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