至上最幸の恋
「知っていたよ」

 なんとか絞り出すように言った。

 決して問い詰めたいわけではない。ただ、律の本心が知りたいだけだ。
 それを、どうやって伝えればいいのか。オレがなにを言っても、責める言葉に受け取られてしまうかもしれない。そう思うと、口を開くことができなかった。

 重たい沈黙が流れた。律は俯いて、唇を噛みしめている。
 時計の秒針の音が、やたらと大きく聞こえた。
 
「……あなたは、いつもそうね」

 顔を上げずに、律がぽつりと呟いた。

「絶対に私を責めない。結婚してから……結婚前から、ずっとそうだった。私が待ち合わせに大遅刻しても、料理の味つけを失敗しても、気にするなって笑ってくれる」

 オレは黙ったまま、律の言葉を待った。

「嬉しかった。この人なら、きっとどんな私でも受け止めてくれるって思った。でも……」

 テーブルに置いた律の手が、わずかに震えていた。その手を握ってやることは、もうできない。

「だんだん、それが怖くなったの。本当は怒っているんじゃないか、嫌な気持ちになっているんじゃないかって。あなたは優しいから、それを押し殺しているのかもしれないって」

 律の瞳から、大粒の涙がこぼれた。
 そうか。律はずっと、不安を抱えていたのか。オレの言葉が、足りなかったからだ。
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