至上最幸の恋
 今朝の食卓が、律の手料理を食べる最後の時間だった。あの丁寧な和食を、もう当たり前のように食べることはない。

 父子家庭で育ったから、自炊くらいはできる。
 それでも、自分ひとりの食事となると、どうしても適当になってしまう。当分は、コレットに通う回数が増えそうだな。

「この前、律さんが来たよ」

 新メニュー候補だという照り焼きハンバーガーを作りながら、慧が言った。肉が焼ける香ばしい匂いが、食欲をそそる。

「お前のことよろしく頼むって言われた」
「そうか」
「夫婦って難しいもんだよな。ボタンを掛け違えただけで、取り返しがつかなくなることもある」

 離婚に至った経緯は、慧にだけ話してある。それは律も承知している。オレが本音をこぼせる相手は、慧だけだと分かっているからだろう。

「オレには難題すぎたよ。最初から、おとなしくひとりで絵だけ描いてりゃよかったんだ」
「律さん、言ってたよ。これで心から、日本画家・浅尾瑛士を応援できるってさ」

 律が今日まで家を出なかったのは、オレの制作が立て込んでいたからだ。また食事がおろそかになるからと、最後まで世話を焼いてくれた。
 相手の男とは別れたと言っていたし、それが彼女なりの誠意だったのだろう。

 おかげで依頼されていた絵を順調に納品できて、まとまった金も入った。
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